『グランズウェル』のレビュー
企業がネットとどう付き合っていけばいいのか、その全体像と具体例を知ることができる内容です。
SNSに特化したものや、広報・PRに特化した関連書籍は多くても、企業がデジタルメディアを総合的にどう考えればいいのかということを書いた本は、実はそれほど多くありません。
テーマが広すぎるからかもしれません。
どういう選択肢があって、そこにどのような可能性や潜在性があるのか、どういう役割が期待できるのか、ということが包括的に、と同時に個別事例も豊富に書かれているのは非常に参考になります。
原書は2008年とやや古いですが、そうした珍しさという点で今でも読まれているのでしょう。
『ファンベース』の佐藤尚之さんも本書をバイブルのようにたびたび読み返している、とどこかで紹介されていましたが、それもうなづける話です。
といっても誰も本書を読まないと思いますので(笑)、ざっくりポイントを説明します。
ネット・デジタルメディアの可能性を、本書では5つの従来機能に分類して説明しています。この従来の機能とは、企業という組織がもともと持っている機能のことです。
つまり、ネットやデジタルメディアは、下記の大きく5つの分野に活用できる可能性があるということです。
1.リサーチ
2.マーケティング
3.セールス
4.サポート
5.開発
企業のほぼすべての部門でネットを活用することができる、といえば身も蓋もない話になりますが、まぁそういうことになりますw
今の時代、ネットと無関係の部門など普通の企業にはほぼ存在しないかと思いますが、本書では、その活用事例を体系的・具体的に紹介しているところが参考になります。
1.リサーチ
ここでの役割は「傾聴」、いわゆる市場調査です。
具体的には、ネット上のコミュニティを立ち上げたり、ブランドモニタリングが含まれます。
ブランドモニタリングと原書のままカタカタを使ってみましたが、いま風にいえばエゴサーチもしくはソーシャルリスニングのことになります。
消費者やユーザーが自社や自社商品についてどう思っているのか?何を理由に選んだり選ばれなかったりしているのか?などなど。
従来は何百万、何千万という費用をかけていた市場調査という機能が、ほぼ無料でできるのがネットの世界です。それを活用しない手はないよという話が書いてあります。
毎日、SNS担当者としてやっているエゴサの大切さを痛感できる内容です。
で、本書のなかではコミュニティを立ち上げて、そこから積極的に顧客の情報をとっていこう、という具体例も紹介されたりしています。
たとえば、日本の例でいえばカゴメが会員サイトをつくってそこから情報収集していたりするような大元の話がここにあります。
2.マーケティング
ここでは顧客との「会話」「コミュニケーション」をとることが目的です。
マーケティングから一般に連想されるような売り込んだり、情報操作する的なニュアンスの話ではありません。
その方法として、SNS、ブログ、コミュニティを紹介しています。
どのツールを使うのかは、どんなコミュニケーションの課題を抱えているかによる、と筆者はいいます。
「それは「認知度」の問題かもしれないし(ターゲット顧客に認知されていない)、「クチコミ」の問題かもしれないし(顧客が会話をしていない)、「複雑さ」の問題かもしれない(伝えたいメッセージが複雑すぎる)。」(p.170)
広報って大きくわけたら、やっぱりマーケティングの要素が強いなんだなとこれを読むと思わされます。
という感じで、セールス、サポート、開発といった従来からある企業の機能に対して、ネットやデジタルメディアがどう貢献できるか、ということが具体例とともに詳しく書かれているのが本書です。
セールス、サポート、開発については、私が業務でかかわっている広報やSNSと離れてしまう話なので割愛しちゃいます、てへ。
さわりだけを紹介すれば、ユーザーレビューなどを反映した商品開発、心理所得を利用したQ&Aコミュニティの形成の話などなど。
本書が執筆されてからしばらくたって今でも十分参考になる事例がたくさん紹介されており、ときおり辞書的に振り返りたい内容でした。