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8月9日のお話

流れる光がもし人生のようだとしたら、たまに光がないのもまた人生。

それはまるで、高速道路を行き交う車みたいだなと、あなたが言うので、わたしはすっかり、あの東名高速道路の、上り、川崎ICを過ぎたあたりで突然現れるそれに心を奪われてしまいました。

綺麗さと言う点だけではありません。

その綺麗さを増幅させることを考え抜いた、防音壁の素材選びに「粋」を示そうと言う人がいただろうことも、わたしにとっては心を奪われたひとつのきっかけでした。

雨の日に車のヘッドライトと、テールランプが道路に反射して、光が倍増するのは、あらゆる画家が絵にしているくらいなのでみなさんも新しく感動は無いでしょう。

でも晴れている日もその美しさをみていたい。

そうな風に彼女から言われたのかもしれません。

あの防音壁をつけようと思い付いた、道路工事会社の社員さんがいたからこそ、私たちはアレを見ることができたのです。

ガラス張りの防音壁は、昼間は外の景色を見せて、夜はライトを反射させて、雨の日の輝きの増幅を晴れた日も再現します。

防音壁が完成したあと、もしかしたら彼は彼女にプロポーズでもしたのかもしれません。

いずれにしてもとても良い仕事をした誰かがいたから、ここは密かな夜景スポットになりました。

それから数10年たち、あるカップルがそこを通りかかりました。綺麗だね!とひとしきり感動した後に男の方がいいます。

「ねぇ、ここに名前をつけてよ」

女の方が少し考えて答えました

「あなたと歩む人生坂」

なんだそれ、長いし、名前らしくない。そう言われて、

「じゃあ、二人道。ふたりみち」

一人の人生でも楽しくキラキラしたことはあるけど、あなたといると、そのキラキラが反射してたくさんのキラキラに増えるの。それを忘れさせないようにしてくれる場所だから、わたしはこの道を通るたびにあなたに会えたことを感謝する。そんな道よ。


2020年8月9日

東名高速道路上りの夜景を命名。ふたりみち。


着想 Jason Anderson 

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