6月1日のお話
2003年6月1日
今日は制服の衣替えの日。少しダサめのワンピースだった冬服から、可愛い(と他の高校からも評価の高い)夏服の白いセーラー服に切り替わる日。
出来れば街に遊びに行くのは、セーラー服になってからの方が良い、確実にその方が男子達の視線を集められるからだ。
そんな高校の頃のワクワクした気持ちが、卒業して3年が経とうとする今でもカレンダーを見ると蘇ってくるから面白い。
そんな今日、私は大学に退学届を出しに行く。昨日とほとんど変わらないTシャツにジーパン姿で姿見の前に立つ。格好は変わらないけど、まさに身分の衣替えだ。
今日まもなく私は、大学生からフリーターになる。
「まだ学生なんだから」という逃げ道を断ってしまいたかったと言えば格好もつくが、何のことはない。人生を捧げたい人に出会ってしまったのだ。その人と共に生きることに、全力を注ぎたい。そう思ってしまったら、勉学や友人、キャンパスライフやバイトなどというものが全く意味のないものになってしまったから、仕方ないのだ。
私は変わり続け、求め続ける。
2023年6月1日
紫陽花が花屋に並ぶと、そろそろ衣替えをしなきゃと無意識にクローゼットを整理してしまう。秋口にセールで買った夏物の服にようやく袖を通せる季節がやってきた。
ファッションに気を遣いつつも、新作なんて追いかける年齢でもないからこれで十分。衣替えという「区切り」をつけていくことが、私にとってはきっと大切なんだと思う。
夏の戦い方、冬の戦い方。仕事歴も長くなると、いつのまにか自分のリズムと仕事の癖を把握できるようになって、なんとなくそんな切り替えをするようになった。
冬はどんな苦難も走り抜け、夏は次の冬に備えて楽しく成長をする。それが私らしい働き方で、私が私であり続けられる生き方なのだ。
私は私を確立し、私と世界の対峙方法を見いだした。
2043年6月1日
待ちに待った長期休暇初日。家族のいる人たちは、未だに夏休みというバケーションに縛られているが、私は随分前からこの6月の長期休暇をひとり楽しんでいる。
軽井沢の知人から送られてきた青梅の芯を取り、梅酒づくりの準備をする。北海道の農家さんから届いた山椒の実は佃煮にして一年分の調味料に。
私の長期休暇の前半はそれなりに忙しい。
季節の香りに包まれて、懐かしさから日本人としてのアイデンティティを再確認する。こうして自然の営みに合わせる不便さに屈し、謙虚さを持てるようになるまで、私は随分回り道をしたように思う。
私は長い年月をかけて、ようやく、変わらなければならない6月1日から、変わらなくても良い6月1日にたどり着く。
着想 ダリ「速度の感覚」
The Sense of Speed
1931 oil/canvas
Gala-Salvador Dali Foundation, Figueras, Spain