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11月14日のお話
不確実性の時代と言われ、これまであった職業は10年後ある保証がなくなり、これまでなかった職業が誕生し始める。2020年はそんな予感を誰もが感じる年になりました。これまでなかった職業についている人は、これまでなかった人生を歩みます。見本もなく、導いてくれる人もいない新しい道を進むのです。
「クリスマスの雰囲気が出てくると、一年を振り返って、昨年のA点から今のB点に至るまで、どういう成長があったかって不安になるのよね。」
「A点からB点?」
「ええ、2020年1月1日というA点から2020年11月14日というB点ね、今の場合。」
原宿に新しく出来た猿田彦珈琲で読書をしていたカリノの隣の席で、女性二人が、興味深い会話を始めました。こういう会話が耳に入ってしまうと、もう読書に集中できなくなるのがカリノです。ついつい、読書をしているフリをしながら耳を傾けます。A点からB点という表現が独特で、職業はなんだろうと邪推してしまうくらい、彼女はカフェでの盗み聞きが好物でした。
「ああ、前、ちょっと話していたやつね。数値で測れた頃は良かったってことやな?」
「そうそれ。数値。去年までの私だと、営業成績で、新規顧客数、売上。」
「うちは、昇給とか昇進とかやなぁ。去年までやと。」
二人の会話から想像すると、彼女たちが去年と今とでは仕事や立場が異なるようです。その後の会話から一人の女性は部署移動で新規企画系の売上数字を持たない部署へ、もう一人の女性は独立しているということもわかりました。
確かに。
カリノの会社でも、営業からバックオフィス系にうつると評価が定性的なものに変化し、モチベーションの低下や自分の仕事のスタイルを見失う社員が出ています。MBO制度も今の時代限界になってきている、そういう課題も聞こえています。それを、会社組織での達成目標ではなく、自身の1年の成長という目標を掲げている彼女たちはどう捉えるのだろう。カリノの職業病が発動しました。もはや手元の本に目を落とすことはできません。コーヒーを手に取り、目線だけ窓の外に向けて耳を傾けます。話は少し言ったりきたりしながら、最後にこんな話題になりました。
「子供の成長とかあれば、違ったのかなとも思うのよね。」
「うちも個人事業主じゃなくて従業員を雇う会社やったらちゃうかったかもと思う。」
その会話に、彼女はなるほどとうなづきました。
”自身の成長には、自分の中だけの物差しでは気付きにくい”という、最近の人事部としてのカリノの仮説です。それがまさに二人の会話の中に現れました。
自分の成長は相対的なもので図りたいのが人の常でしょう。誰かとの比較、モデルケースとの比較、社会制度の中での比較。
他人と比較しないで済む生き方ができるようになった世の中ですが、その誰かと比較することから解き放たれた人はどうするのでしょう。
「職場の先輩がね、子供には”空手”を習わせるのが良いと話しているのを聞いたことがあるの。」
部署移動をした方の女性が切り出しました。空手を習わせる理由を護身術にもなる、礼儀正しくなる、体幹が良くなるなどいくつかあげていましたが、「一番は昇進すること、目に見えて帯の色が変わる成功体験」と言っていたそうです。
「子供の頃から成功体験、目に見える達成感や幸せを教えるのは否定せんよ。」
「そうね。」
二人の会話は、そこでしばらく途切れました。
カリノはその二人の会話の後を想像します。彼女たちが飲み込んだ言葉はきっとこんな感じの言葉だったことでしょう。
「でも、その子が大人になることには、きっと、それだけだと行きづらい世の中にはなっている気がする。」
そう想像して、カリノはふと思いました。ここ数年、クリエイティブ、デザイン思考、アートなどの文字がビジネス界に急激に流れ込んできたのは、こういうことを予測した人々によるものだったのかもしれない。
仕事も、生き方も、達成感も幸せの感じ方も、全部自分で作り出していかなければいけない。究極のクリエイターが、これからの世の中に必要な人材なのかもしれません。