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現実は小説より奇なり #4

 現役の看護学生が美容室にバイトを希望して面接を受けに来た。
 当時のオーナーは採用するか迷ったそうだ。そもそも違う免許を目指している人材であり、その後につながる人材でもない私を雇用するのにはそこまでメリットはない。
 しかし募集は集まらず、バイト希望だし、雑用要員でもという形だったのだろう。採用されることになる。

 学校が終わってからの数時間、土日は丸1日。私は美容師もどきとしてバイトをする事になる。
 掃除やスタイリスト達のヘルプなどが主な業務ではあったが、お客様から見たら私も美容師の卵。スタイリスト達と一緒に接客をするその時間は、私には華やかな世界に見えてしまっていた。
 美容院でバイトをしながら、学校では座学や病院での実習をするのだが、私がみるその二つの世界は、朧げな自分の心の中をますますクリアにしていってしまう。
 もともと髪型をかまうのが好きな私にとって、先輩スタイリストが「髪を切ってあげるよ」と頻繁にカットをしてくれる。逆に私も、お客様がしていた髪型にしたいといえば営業後に切ってくれる。それは、楽しくて仕方がない現場だった。

 そんな中、少しずつ掛け違えたボタンがはっきりしていくようになる。

 新しいカラー剤が入ったという事で私の髪の毛で試させて欲しいと先輩スタイリストにお願いされ、喜んで頭を差し出す。当時では珍しく赤く発色するカラー剤で、私の髪の毛は真っ赤に仕上がった。
 私は仕上がりにとても喜んでいたのだが、その1週間後は病院実習だった。
 流石に教師に注意されるのだが、染めたくない私は黒いスプレーで髪の色を変えていき実習へ向かう。
 もちろん、病棟の詰め所で現場の師長にコテンパンに怒られてしまう。それもそうだ。ショートヘアの私の髪の毛は黒いスプレーはムラになり、赤い髪と黒スプレーでカチカチになった束がムラムラになっていたのだ。
 実習は私だけ返され、学校へ強制送還。教務主任室へ直行の上、学校では長い説教を喰らうことになるのだが、その説教すら馬に念仏。全く私には響かなくなっていた。

 「看護師より美容師の方が向いているのかもしれない。」

 そう思った時には、根っからの何も考えず直感的に行動してしまう性格の私は、担任に退学の相談をしていた。
 当時私より先に、オートレーサーになりたいと退学していった生徒がいたり、妊娠で休学希望をでした生徒がいたり、何人かがドロップアウトをしていった中でまた一人退学希望者が出てしまったので、学校側でも必死に止めにかかってきていた。
その時教務主任に必死に説得されていた中で印象的だった言葉は
「看護師になったって、髪の毛洗えるじゃない!」
私は別にシャンプーしたくて美容師になるわけじゃないんだけど…

 父親譲りの一刻者の性格の私は、決めてしまったら何があっても動かない。

 ボタンの掛け違えを途中で気づいてしまい、キチンと掛け直してみたら、私がやりたい仕事は美容師だった。

 呆然とする両親を説得し、看護学校を1年でリタイア。

地球滅亡で人生設計をかんがえだした私に残されたタイムリミットはあと6年となっていた。

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