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為替は? 石油など商品取引は? ~ そろそろ投資対象を知る(7)

第3章(6)からどうぞ)

さて、これまで棚上げしていた為替について考えましょう。

株式でも債券でもREIT(不動産投資信託)への投資でも、できるだけ分散して特定の事業や発行体や不動産へのリスクを減らし、安定的にどんな時期でも上下動を少なく抑えながらリターン(潤いのためのR)を獲得したいですね。それゆえ、できるだけ世界中に幅広く小口に分けて投資をしておきたいと思います。そこで新しく為替リスクが発生してしまうわけです。

これまで「為替」を棚上げしていた理由は、為替が投資対象ではないからです。FX証拠金取引など「為替」を「投資」の対象としている場合もありますが、ここで考える「潤いのある生活のためにリスクを取ってある程度高いリターンを獲得しよう」とする投資では、「為替」を含まないでよいでしょう。

為替が他の資産と異なる点は、「リスクに応じたリターンがあるわけではない」ところです。為替に関わる何かを保有しても、実はリスクだけしか残りません。債券では、現金を手放すことで「他のことに使えない」「ある時まで戻ってこないかもしれない」「経済全体の生産性を上げれば成長するができないかもしれない」などといったリスクに応じて、リターンを期待することができました。株式では、償還の約束も金利の約束もありませんが、儲けに応じて分配されることが期待されます。事業のリスクに応じた利益と分配の期待、さらに分配しないで内部留保した資金が新しい生産ラインや新商品開発に使われることで将来の分配を増やす期待などが、保有する人のリターンの源泉となりました。不動産投資でも、リスクに対して家賃などのリターンを期待することができました。

ところが為替取引には、人の努力や才覚などに基づくリターンの源泉は何もありません。為替の決定理論の基本だけおさえるとすれば、ふたつの国の物価の差が為替を決めます

ビッグマック平価説やスタバのトールラテ平価説も、この理論の基礎を踏まえています。例えばそれぞれの国で同じコストで作られるハンバーガーの値段が、日本で100円、アメリカで1ドルであれば、1ドル=100円がちょうどよさそうです。物価はハンバーガーだけでは決まらないことや、物価水準だけではなく物価上昇率(インフレ率)が問題になるということなど、話を複雑にしようと思えばいくらでもできますが、まず為替はそもそも物価と物価の比較からなることは確かだと思います。

金利のところで述べたように、インフレ率は通常、人々の工夫や生産性改善の部分を含みません。思い切り単純化して言うと、物価の比はふたつの国の中央銀行が何枚お札を印刷したかの比に依存します。モノの量が変わらない世界で、お金の量だけ2倍になれば(それがお金として信頼されて機能する限りは)物価は2倍になると想定できます。

投資の観点から為替を考える上で大事なことは、為替の仕組みの中に本質的に潤いのためのリターンを生み出すような「他の人が働いてくれる仕組み」が含まれていないので、リスクだけあってリターンの源泉がないことです。

新興国については、生産性の改善が経済成長をもたらし、為替を強くする(実質金利に当たる部分が大きい)ことが知られていますが、先進国間では単にそれぞれの国の物価(例えばお金の印刷枚数)やその予想(金利など)で決まるのが通例です。

先進国間の為替で最近発見されたのは、金利が高い国の通貨を持っておくと意外にリターンが高いことです。

理論では、金利差があれば為替で調整されます(例えば米国の1年金利が5%、日本が1%とすると4%の金利差は1年たてば4%の円高で調整されるはずで、為替先物はそのように取り引きされます)。金利が適切に期待インフレ率(先進国同士では実質金利は同じと想定)の差を表していれば、この理論通りになりそうなものです。

しかし、最近の研究の成果は、金利が高い国の債券を(例えば1年間)保有していると、金利が高い国の為替は思いのほか低下せず、金利差の大部分がリターンになることを示しました。これは為替取引の「バリュー効果」と考えられています。

このような専門的な知見がリターンの源泉になることはありますが、一般にどころか専門家にもよく知られていることではありません。投資家が自らこのような知見を発見し実際に運用に取り入れることは難しく、プロの商品設計を必要としているといえます。

商品取引


さて、石油金などの貴金属も投資の対象となりますが、他の人に働いてもらいその成果をリスクに応じて得る仕組みとは言えません。農産物などよりも備蓄で品質などが変わりにくいため、金融商品に準ずるという考えもありますが、基本的に価値を生み出すお金の融通の仕組みのなかにあるのではなく、価格は需給で決まると考えるのが良いでしょう。債券や株式のように将来のキャッシュフローが約束されたり想定されたりするものではありません。

先物取引は金利を加味して将来の価値を決めますから、広い意味では経済の成長などを考慮することになりますが、その基礎となる商品の価値は将来のキャッシュフローを想定しません。MLP(Master Limited Partnership)という石油業界のREITのような商品(パイプラインや備蓄タンクを保有し使用料を投資家に分配する)は、石油と言うよりは関連施設への投資と考えてよいでしょう。

石油、貴金属などの商品取引においては、買って持ち続け長期的にキャッシュフローを(他の人に働いてもらい資金提供のリスクに応じて報酬として)獲得するのではなく、何か工夫をしてリターンを獲得する必要がある、ということになります。商品取引で良く使われるのは、チャート分析や経済分析に基づく需給の分析です。

つまり、このような取引はそもそも本質的に、専門的な知見か趣味や楽しみとしての努力や工夫を必要としているわけです。このような意味では、運用内容がブラックボックスとするヘッジファンドへの投資も、ヘッジファンドマネージャーやCTAと呼ばれる商品取引運用業者が「うまくやってくれる」ことをリターンの源泉とする投資と分類してもいいでしょう。

為替、石油、貴金属などの取引は、その取引量が多いことから流動性に心配がないことが多いですし、プロの分析など工夫をするところにリターンの源泉はあるので、世界的に年金などの投資対象となっています。つまり価値を生み出す仕事をするのは、商品そのものではなくその価格動向の分析にあるわけです。

また、石油、貴金属、為替と株式や債券には独特の相互関係がある(例えば米国の金利が上昇すると石油などが下落しやすい、など)ので、ポートフォリオ全体としての損益を安定させるためなどに商品を保有することが有利になる可能性があります。このようなポートフォリオ管理のための「相関コントロール」のために商品取引は便利ですが、具体的にどれをどの程度組み合わせるかは、証券理論を知ったプロの仕事となります。

商品市場はインフレヘッジになると言われます。これはグローバルなインフレであれば機能しそうです。

例えば、世界経済の成長でモノが不足しインフレとなったとします。石油やその他の商品・貴金属の価値も上がりそうです。インフレでは金利が上昇しやすいので、債券と組み合わせておけば資産の価値の変動を押さえられそうです。

ただし、日本の円投資からみると、円高の状況(例えば日本だけデフレに苛まれている)ではドル建ての商品価格が上昇しても相殺されてしまうことがあります。逆に米国のインフレで中央銀行が金利を引き締めると、インフレの中で金利上昇とともにドル建て商品価格が下落することがあるかもしれません。また、石油・貴金属などの商品の値上がりがいつでもインフレと関わるとは限りません。例えばガソリンの価格が上がってもみんなが他の何かをあきらめてしまうと、物価全体は上がらないこともあります。

第3章(8)に続きます)


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