写真集『MINAMATA NOTE』について03
(2012/09/15記)
水俣訪問初日の夜、石川武志さんの被写体である患者さんたちが集まり、地元の新聞や通信社の支局員たちを交えた懇親会が開かれた。私はそこで、初めて水俣病と対峙した。
石川さんが「水俣の三人娘」と呼ぶ、坂本しのぶさん、前田恵美子さん、加賀田清子さんが揃い、華やかな宴だった。
お願いして胎児性水俣病患者の坂本しのぶさんと石川さんのツーショットを撮らせてもらった。
しのぶさんは、中学生のころから環境、公害、水銀問題に関する国際シンポジウムに出席し、積極的に発言してきた現代の語り部である。
オレンジジュースを飲みながら身振り手振りを交えて色々な話をしてくれる。水俣弁の言いまわしに不慣れな私は、障害者に特有の舌足らずな調子を聞き取り切れない。
それが何度か続くとしのぶさんの表情に苛立ちとも諦念ともつかない何かが浮かんだ。
患者さんたちとの飲み会を終えてホテルに戻ると、息苦しいような思いがこみ上げ、F3を片手に独り夜の市内へ繰り出した。水俣駅の真正面に陣取るチッソ本社には煌煌と明かりが灯り、煙突から上がった白煙は陸風に流されて低くたなびいていた。
昼間はさほど目立たない白煙だが夜目には明らかだった。患者さんたち一人一人の顔を思い返しながら、ここでは何も解決しておらず、何も終わっていなかったのだということを痛感していた。
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