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板門店 판문점 パンムンジョム

 韓国の地でありながら、韓国人が訪れるためには数多くの煩雑な手続きを踏まないと来られない地──それが板門店です。外国人はツアーに参加すれば気軽に訪れることができます。

 冷戦時代、東西に分断されたドイツのベルリンの壁と並んで冷戦の象徴であった板門店は、ドイツが統一され、ベルリンの壁の欠片が数ドルで観光客に販売されるようになっても以前そのままです。南北に分断された朝鮮半島の軍事境界線──38度線の上に残っています。

 ──朝鮮戦争はいまだ、一時的な休戦状態なのです。

 訪問するためには宣誓書にサインをする必要があります。宣誓書にはいきなり「板門店共同警備区域への訪問は、敵性地域への立ち入りを意味し、敵の行動によっては危害をうける、又は死亡する可能性があります」と書かれています(原文ママ)。その後も「敵の行う行動に対し、責任を負うことはできません」ともあります。最後に「敵の挑発による本人及び同伴者の身体・財産上の被害に対する補償は請求できないことを確認します」とあり、署名をする欄があります。
 服装の規則も厳しく、一時はアメリカの象徴でもあるジーンズも駄目だったそうですが、私が訪問したときは大丈夫でした。
 この時の宣誓書は今でも取ってあります。いつか小説に使いたいと考えています。
 写真のようなゲストバッジをぶら下げ指示に従いながら、軍事境界線の上に立っている国連監視下の会議場に入ります。

 写真は窓から見た軍事境界線です。この僅かなコンクリートのラインが南北を分けているのです。韓国側には小石が敷き詰められているのに、北朝鮮側は砂のままなのが印象的でした。

 そう、この建物内では越境が可能なのです。헌병(憲兵)の写っている写真ですが、真ん中のテーブルの国連旗の位置が軍事境界線です。私の立っていた場所は北朝鮮の領土でした。

 この日は北朝鮮側からのツアーはなかったようで、北朝鮮の兵士は間近では確認できませんでした。ただ上記の板門店の写真を拡大してみてみると、北朝鮮の兵士が双眼鏡で観察しているのが分かります。

 帰り際にバスの中から「帰らざる橋」が見えました。朝鮮戦争の捕虜交換が行われた場所で、この橋を渡ると二度と戻れないことから「帰らざる橋」と呼ばれています。

 そう──韓国映画『JSA』のオープニングでイ・ビョンホンが渡ってくる橋のモデルとなった場所です。『JSA』に関しては別途ページを作っていずれ感想を書こうと思いますが、とにかく、心を鷲掴みにされる映画です。

 ※『JSAに関しては、こちらのページでコラムを書いています。

 同時期に上映されたシュリがエンターテインメントに徹しているのと比べ、南北に分断された国家の哀しみを余すところなく表現している映画です。特に北朝鮮の人民軍兵士を演じているソン・ガンホの演技に心を打たれます。日本人である以上、完全に同じ立場で韓国人の感情を理解できるとは思いませんが、一刻も早い南北統一を心から願わずにはいられません。

 またこの『JSA』には原作があります。当初DMZ(非武装地帯)と名付けられていた小説はイ・ヨンエが演じたスイス軍少佐が男性であり、その男と父との話が多いなど映画版と多少違っていますが、どちらも心にずしりとくるものがある点では同じです。未読、未見の方には強くお勧めします。

 板門店は日本の隣国の現状、まだ強く残る冷戦の現場、そして、今なお一触即発の朝鮮半島、延いては国際情勢を肌で感じることのできる場所です。ツアーですので韓国語が話せなくても大丈夫です。日本語の話せるガイドが引率してくれます。同時に南進トンネル(第3トンネル)や臨津閣公園、都羅展望台、都羅山駅などを巡るツアーもあります。

 いつかこの場所が、宣誓書に署名などしなくても気軽に訪れることのできる場所に変わることを心より願っております。

第13回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞して自衛隊ミステリー『深山の桜』で作家デビューしました。 プロフィールはウェブサイトにてご確認ください。 https://kamiya-masanari.com/Profile.html 皆様のご声援が何よりも励みになります!