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ポップ・ラッキー・ポトラッチ


奥田亜希子さんの小説「ポップ・ラッキー・ポトラッチ」を読みました。最高でした。

奥田亜希子さんといえば「透明人間は204号室の夢を見る」で衝撃の出会いをして以来夢中なんですけど、

先日の文学フリマでなんと作家本人とお会いして、あわあわしながら少しお話して、そしてその場で新刊を買ってきたのでした。
それが「ポップ・ラッキー・ポトラッチ」。

もう一度言いますが、最高でした。この本。
作家本人から直接買ったからとかサインもらったからとか元々ファンだからとか、そういうので言ってるわけじゃなく、というか最高だからファンなんですけどそもそも、とにかくめちゃくちゃ面白く、読書体験としてとても気持ちいい。


相田愛奈の将来の夢は、総理大臣になることだった。

「ポップ・ラッキー・ポトラッチ」本文より


これ書き出しです。この一行からこの小説は始まります。
なんか、自分でも小説を書くからかもしれないけど、こういう文章からはついつい先の展開というか、話全体のつくりを予想してしまう癖があって、この時もそうだったんだけれど、その予想は何ひとつ、ほんっとうに何ひとつ当たりませんでした。総理大臣になるのを夢見た少女の人生は、思ってたのと全然違う形で動いてゆきます。

で、ここからわずか4ページ先で、僕が完全に掴まれた大好きなシーンについて書きますね。
(ストーリーのこととかあんまり書きませんたぶん。レビュー苦手です)

総理大臣になりたい相田愛奈(小6)は、小学校の卒業文集に掲載されるアンケート用紙の「将来の夢」の欄に、力強く「総理大巨」と書きます。それを隣の席の男の子に見られ、「総理大臣になんてなれるわけない」と言われ、軽い口論になります。
「無理じゃない、女の人だって総理大臣になれる」
「そういうことじゃない。政治家はみんな頭のいい大学を出てる。勉強ができなきゃ無理だ」

といったやりとりの後の、男の子が主人公のアンケート用紙を指差し、
「大臣の臣が、巨大の巨になってる」
と指摘する場面。
はっとした主人公の挙動を表す次の文章。

愛奈は一年生のときから使っている箱形のペンケースを手に取った。〈巨〉に縦線を加えようか、それとも「将来の夢」ごと書き換えようか、鉛筆と消しゴムの上で指が迷う。

「ポップ・ラッキー・ポトラッチ」本文より


ここ!
ここびっくりした!
なんかさっきまで2人をメインにしつつ教室全体の映像がなんとなく頭にあったのだけど、この文のところでカメラがぐっっっと主人公の手に寄った感じがした。
読んでて「うおっ」て声出ちゃうくらい映像動いたんだけどこんな書き起こし方で伝わるだろうか伝わんないよね読んでください
なんかでもこの臨場感!これがこの人の小説のすごいところで、先に書いた「透明人間は204号室の夢を見る」でもこういうのがいっぱいあって、一気に主人公が「いる」感じになって、そうなるともうとにかく近くて。近くて!
そっからはもうすごいよ。すごいんだから。
ポップ・ラッキー・ポトラッチはこの作者の作品の中でもとびきり早い。2時間くらいで読み終えた。短いというのもあるんだけど、とにかく早いの。色んな出来事が次々にばしばし起こるとかじゃなくて、いやまあ起こるんだが、それだけじゃなくなんかとにかく先へ先へ読まされる感じで早いの。早く読まされるの。ただ軽いわけじゃなくて、どしっともやっと考えさせられてもいるんだけど、それを抱えたままどんどん読まされる。

あと、「透明人間は〜〜」を読んだときにもすごく思ったのだけど、ナレーションの距離感が独特なのだよね。なんか、神様じゃない。客観的じゃない。けど、主人公の語りでもない。なんかグヨッと混ざり合っていて、それがなんだかやけに没入を誘う感じがある気がして、この感じは自分の作品を書くときにもすごく参考にしています。
新刊を読んで改めて思ったけれど、この人の作品からはものすごくたくさんの栄養をもらっている。

最初に書いたけれど、やっぱり作品が好きだからファンなんだよ…。と、当たり前のことを噛み締められたことがすごく幸せでした。
文学フリマでお会いしたとき、奥田亜希子さんは最後に「いいものを書けるように頑張ります」と言ってくれた。作品を楽しみに待っている相手からもらう「頑張ります」は、こんなにもわくわくさせてくれるのか、と感動した。
ブースを去る前に、はじめて作った自著「胎内の雪」を差し出し、どうかもらっていただけませんかと言ったら、快く受け取ってくれた。
尊敬する作家、この人の作品が本当に好きだと思っている小説家のもとに自分の本があると思うと、自分ももっともっと頑張れる気がした。

奥田亜希子さん、大好きな作家さんです。
未読の方はぜひ、一度触れてみてください。

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