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自民党総裁選総括(中編):高市早苗大健闘。それでも残った「違和感」を、これから拭えるか。

自民党総裁選で、高市早苗経済安全保障相は第一回投票で1位となり、決選投票に進出した。決選投票ではわずかに21票差で石破茂氏に競り負けた。だが、前回総裁選で後ろ盾だった安倍晋三元首相の亡くなり、苦戦が予想された中での大健闘だった。

選挙戦の中盤から後半にかけて、高市氏の猛追が伝えられた。だが、私は以前から持ってきた高市氏に対する「違和感」が拭えなかった。

多くの支持を集めた高市氏の「保守派」としてのスタンスは、「幻想」だと思ってきたからだ。

私は高市氏が政界入りする前、「朝まで生テレビ」などのメディアを通じて台頭してきた時から観てきた。高市氏が根っからの保守だとは思えないのだ。

保守的な言動は、男社会の政界で、女性として生き抜いて出世していくための一つの道なのではなかったかと思うのだ。そして、それは今回の選挙戦でも、なにも変わっていないと思った。

確かに、高市氏はネットとリアル、2つの選挙戦で「どぶ板」を展開し、それは一定の成功を収めた。私も、その健闘は大いに称えたいと思う。

政治とは「権力闘争」そのものだ。どんなことをしてでも権力を獲りにいかないような政治家は、政治家と名乗る資格はないと、私は思う。

高市氏は、本気で総理総裁の座を奪い取ろうとした。出ることに意義がある的な、総裁になると思ってない候補も多かった中、彼女の姿勢はすばらしかった。

だが、高市氏の「どぶ板」とはなんだったのかということだ。

高市氏は、第一回目の党員票で、当初圧倒的に強いとされた石破氏を超えて1位となった。その躍進を支えたのは、保守系の支持団体・日本会議。その後ろには旧統一教会も隠れていただろう。

自民党が安倍政権以降、内政において左傾化を続ける中、保守派としては、なんとしても巻き返して、LGBTQ法の撤回、選択的夫婦別姓制度の阻止、伝統的家族観の復活などに自民党を右旋回させたい。高市氏はその切り札だった。

国会議員の間でも、高市氏支持は、日本会議、旧統一教会と関係が深い旧安倍派がズラリ。推薦人の多くが「裏金議員」でもあった。

そして、最後は現存する唯一の派閥「麻生派」の領袖、麻生太郎副総裁が、第一回投票から「高市で行け!」と大号令をかけた(ただ、これは河野太郎氏がメディアの「飛ばし記事」だと主張してることは、一応触れておきます)。

要は、高市氏への支持とは、「日本会議」「旧統一教会」「裏金議員」「麻生派」だった。

つまり、勢いに乗った高市氏の選挙とは、ふたを開ければ、実は最も古い自民党そのものだったのだ。

高市氏は「推薦人は自分で選んだものではない」と言った。逆に言えば、それは高市氏を推す人の思惑が見えすぎる形になった。

「日本初の女性首相の誕生」

という金看板に、弁舌さわやか、仕事もバリバリできる素敵な高市氏。その陰で、男どもがうごめく構図。それも、イメージのすっかり失墜した保守系の団体、裏金議員が高市氏に抱き着いてなんとか生き残ろうとしている。

果ては、派閥の大親分である長老が出てきて、「俺が勝たせてやったんだー!」と口をゆがめて叫ぼうとしていた。

「女が世の中に出ていくのを止める、伝統を守る女の鏡」

みたいな、高市氏に対する「幻想」もなんか痛かった。

まあ、私は口が悪いですが、結局、高市氏はなにも変わっていなかった。繰り返すが、男社会の政界で、女性として生き抜いて出世していくための道を今回も歩んだだけだ。

それで、決選投票に残り、あと一歩で初の女性首相誕生というところまでいった。

しかし、あと一歩届かなかったのは、彼女のこのあり方そのものにあった。「日本会議」「旧統一教会」「裏金議員」「麻生派」では、「中道保守」を掲げる野田佳彦元首相率いる立憲民主党に勝てないと思った人が、最後に彼女を選ぶのをためらったのだ。票が逃げたのである。

今は、「石丸伸二現象」が起こるなど、無党派(サイレントマジョリティ)をどう獲るかが勝負の時代。まあ、実は昔からそうだったんですけどね。安倍元首相が長期政権を築いたのは、保守にいい顔をして確実に抑えながら、「アベノミクス」と社会民主主義的な国内政策で無党派を確実に獲ったから。

ただ、私は高市氏のこれまでの歩みを否定するつもりはまったくない。野田聖子氏や小池百合子氏なども同じなのだ。男社会の権化みたいな自民党で、女性政治家が生き残り、首相候補にまでなるには、この方法以外なかった。

どんなに能力があろうと、女性政治家が仲間を募り、派閥の長になって堂々と正面から総裁選に出るなど、不可能だったのだ。

高市氏は、やれることはぜんぶやったのだと思う。むしろ敬意を表したい。

しかし、男社会の自民党がグダグダになって、そこから生き残るために担ぎ出される女性首相など、なってもなんの意味があろうかということだ。

だが、時代が変わった。自民党も変わらざるを得なかったのは事実。「ポスト石破」の一番手に躍り出た高市氏は、今度こそ、仲間を募り、確固たる自分自身の基盤を作り、堂々と総理総裁になるべきだ。

男社会の「派閥」はもう終わりだ。「派閥」ではない、女性の新しい感覚の言葉遊びではない、本当の意味での「政策集団」を作る。

政策も、もう男に遠慮しなくていいではないか。

もちろん、安全保障・経済安全保障に関しては、今の信念ある姿勢を貫けばいい。

しかし、国内政策においては、「女性の敵」みたいなことを言わなくていい。女性の社会進出を進め、そしてすべての人の基本的人権を守っていく、「本来の高市早苗」に戻ればいい。

私は、日本初の女性首相が誕生すれば、保守派の高市氏への期待とは逆に、日本社会は劇的に変化すると思っていた。

英国で、ビクトリア朝の伝統を守る保守のマーガレット・サッチャーが初の女性首相になった時がそうだったからね。サッチャー時代から、ジョブ型雇用が進み、女性政治家、女性管理職が4-50%を占める社会が始まった。女性首相の存在そのものが、社会を変えるのだ。

だが、どうせ女性首相が誕生するならば、男社会の傀儡ではなく、本格的な実力のある女性首相が誕生するべきだ。

高市早苗氏のこれからに、大いに期待したい。


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