上久保ゼミのクリティカルアナリティクス:「M&Aは企業を救えるのか」
2024年6月27日(木):競争力養成プログラム
学生の議論は以下の通り。
上久保のコメント
かつて、M&Aといえば、日本企業が海外企業を買収することだった時代があった。
民主党政権期の円高下で、日本企業は海外企業を買収するM&Aを熱心に起こっていた。円高で、日本国内の工場から輸出して儲ける従来のモデルが苦境に立つ一方で、いい商品を生産する海外企業を安く買収して事業を拡大していた。
日本企業はグローバル化を推進していた。私は、国内の既得権維持、岩盤規制の維持に固執する政界、官界よりも、企業が日本の構造改革を加速する存在であると考えていた。
2011年の論考である。
ところが、いまやM&Aといえば、円安の進行で、外資が日本企業を安く買収するということだ。
私は、15年くらい前に、中国、香港、シンガポールなどの若い経営者が、少子高齢化で後継者難になる日本の中小企業の多くを買収することになると、授業などで言ってきた。
ただし、私は円高で、日本の中小企業は高く売れると思っていたし、アジアの若い経営者が、新しい発想で日本の高い技術を生かした経営をすれば、日本経済は賑やかになると思ったし、売った日本側も、その資金で新しい産業を育てることになると信じていた。
また、私は大学で「大卒の若者が中小企業を買い、経営する」ことを教育するプログラムを作ったらいいとも主張していた。
今、大学で起業家養成プログラムがあるが、既存の中小企業を経営することを教えるプログラムだ。買収資金を提供する金融機関などと協力してやればいいと思った。
外国人だけに中小企業を買わせるのじゃつまらんと思ったからね。日本の若者のキャリア形成の1つになればと思ったのだ。
そんなことをいろいろ考えていたが、15年くらいたって実際に起こりそうなことは、円安下での中小企業の海外へのたたき売りである。
海外企業の買収の動きが止まったのも、日本の中小企業が安く買いたたかれるのも、どちらも「アベノミクス」の負の遺産といえるだろう。
「アベノミクス」は、円安によって日本から輸出して儲ける「高度経済成長」のモデルが終焉しているにもかかわらず、それを「美しい国、日本」とした。そして、「日本を取り戻す」と無理に異次元のカネを投入してそのモデルを守ろうとしたのだ。
しかし、先進国の経済モデルとは、通貨安で「安かろう、悪かろう」を輸出するのではなく、通貨高で、衰退した産業を新興国に高く売り、新たな産業を創造し、高品質のものを高く売って儲けるものでなければならないのだ。
例えば、私が住んでいた時の英国(2000-2007年)は、まさに「ポンド高」で成り立つ経済だった。国内の製造業は宇宙産業、航空産業、原子力産業など。伝統的な自動車産業は、インドのタタ財閥など資金力のある新興国に売却され、新興国の資金で労働者の雇用を維持する。売却で得た資金で、IT企業などに投資されていた。
そのように、産業構造、社会構造を転換する時間を奪われたのが、2012年から12年続く自民党政権なのだと、断ぜざるを得ない状況にある。
民主党政権がよかったとはいわんけどね(笑)。
ただ、少なくとも企業が今のように、「政府がなにをやってくれるのか」ばかり待っているような、情けないことにはならなかったように思う。
企業がアニマルスピリットをもってグローバル経済で戦い続けていれば、今の日本は違った姿になっていたはずだ。
今、日本は、ただ安くアジアの経営者に買いたたかれるだけだ。日本に何が残るのだろうか。