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保守派は高市早苗の「虚像」を支持している。本当の孤独な闘いを誰が支持するのか?

高市早苗氏が自民党総裁選に立候補することに、ネット上の保守派は盛り上がっている。前回(2021年)の総裁選で、安倍晋三前首相の支持で総裁選に出馬し、保守派の代表として台頭した。

高市氏は「同性婚反対」「選択的夫婦別姓反対」「女系天皇反対」などの主張を打ち出してきた。また、岸田文雄内閣の経済安全保障担当相として、国が指定した経済安全保障上の機密情報を扱う人を認定する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の導入を盛り込んだ「重要経済安保情報保護・活用法案」を成立させた。

軍事的挑発を繰り返す中国への批判や国益を死守しようとする姿勢から「保守派の希望の星」となっている。

だが、私は高市氏が政界入りする前、「朝まで生テレビ」などのメディアを通じて台頭してきた時から観ているが、高市氏が根っからの保守だとは思えない。

保守的な言動は、男社会の政界で、女性として生き抜いて出世していくための一つの道なのではないかと思うのだ。

例えば、高市氏は「選択的夫婦別姓」について、全否定しているわけではない。

首相就任時に旧姓を通称使用できる措置を国や地方公共団体、公私の団体、事業者に義務付ける「婚姻前の氏の通称使用に関する法律案」を政府提出法案として国会に提出する考えを示した。「この法案が通れば、ほぼほぼ結婚で姓が変わることによる不便はなくなる」と指摘している。

私は、すでに通称使用は広く社会に定着し、それは事実上、日常において「選択的夫婦別姓」が定着していると指摘したことがある。

詳しくは、こちらを読んでほしいが、要は、戸籍上「夫婦同姓」ということ以外、多くの夫婦は日常の多くで別姓であるが、子どもの学校等、必要な時は同姓ということでうまく柔軟に対応してやっている。

言い換えれば、「戸籍」という紙きれ一枚以外、夫婦同姓を強制するものはない。その戸籍はほとんど日常には縁遠い。例えば、私ら夫婦は、17年間、一度も戸籍を取りに役所にいったことはない。

要は、「戸籍」という紙きれ一枚が形式上残っているだけだ。その紙切れが家族のきずなを強めるなどというのは、正直ピンとこない。

高市氏の提唱は、その戸籍の必要性をなくすことを法的に強化することだ。

いっそのこと、「選択的夫婦別姓法」を通したほうが、仕事等の微妙なめんどくささがなくなっていいのではないかと思うけどね。

ちなみに私は、選択的夫婦別姓に反対ではない。ただし、うちの家族は法律が通っても夫婦同姓で行くことを決めている。それはカミさんの意向だ。

これが「選択的」ということだ。他の家がどう考えようと、どうでもいいではないか。それを望む人がいるのだから、かなえてあげればいい。

それはともかく、ここで言いたいことは、高市氏が、女性の社会進出を進める取り組みを粘り強く続けてきた政治家であることは間違いないということだ。


また、高市氏は非常に実務能力の高い政治家だ。そのことは意外なほど語られることがないように思う。

前述の、経済安全保障担当相としての実績は高く評価されるものだ。私は、外国人を排除するためでなく、むしろ海外から優秀な人材を受け入れる必要性から、スパイ防止法の成立を主張してきたが、その観点でも、一歩前進といえるものだ。

また、総務相としての在任期間は、歴代最長だ。通信政策、サイバーセキュリティー、デジタル化に精通しているし、総務省という巨大官庁を動かしてきた。コロナ禍で明らかになったデジタル化の遅れへの対応は、日本が最優先に取り組まねばならない課題だが、高市氏は他の総裁候補の誰よりも、着実に改革を進めることができる力量がある。

だが、高市氏には明確な弱点がある。首相を目指すには、仲間づくりができていないということだ。

首相の座を目指すのなら、一人で実務をこなすだけでは不十分だ。また、誰かに担がれて首相になろうというのなら、「担ぐ神輿(みこし)は軽い方がいい」という長老たちの操り人形になるだけだ。

前回の総裁選は、安倍元首相の強力な支持があった。安倍元首相の死で、後ろ盾がなくなった。その後、今回の総裁選に向けて、どれだけ仲間づくりをしてきたかというと、努力はしてきたようだが、結果が出ていないようだ。

高市氏は、2011年に安倍派の前身「町村派」を離脱した。次期総裁選で、安倍氏を推すためというのが理由だった。その後、「安倍派」となって、安倍氏の強い後ろ盾があるにもかかわらず、高市氏は復帰できなかった。

高市氏に対する嫉妬、反感が強いのだ。

高市氏が、森喜朗氏、小泉純一郎氏、安倍氏と、力のあるリーダーにべったりなスタンスを取ってきたこともその理由の1つだ(それは、小池百合子氏、野田聖子氏にも通じる)。

それは、そうせざるを得なかった側面が強い。女性政治家が、男社会の政界で生き残っていくのは想像を超える苦労があったのだといえる。

前述の「通称使用」の法制化の推進や、「女系天皇」は認めないが「女性天皇」は容認するなど、高市氏の主張は、女性政治家としての元々の信条と、男社会で気に入られるために保守的な姿勢をとることの、ギリギリの線でやってきたことを示しているのだ。

高市氏を支持するという保守派は、この高市氏の孤独で長く苦しい闘いを知って、支持するのだろうか?単に、保守的な言動をかっこいいというなら、それは高市氏の「虚像」を支持しているにすぎない。

あえて言えば、総裁候補の中で、日本が一番変わる可能性があるのは、高市氏が首相になった時だと思う。ただし、保守派が望む古い伝統を取り戻すという意味ではない。

高市氏は首相になれば、保守ではなく、現実的に政策を進めることになる。
確かに安全保障政策は安定するだろう。それはいい。内政については、伝統を押し出すことはない。

社会の変化、国民のニーズに現実的に対応せざるを得ないからだ。例えば、安倍元首相は、「女性の社会進出」「移民政策」「全世代社会保障」など、社会民主的な政策を実行した。高市氏も同じである。

なによりも、「日本初の女性首相」の誕生が日本社会に与えるインパクトは絶大だ。女性が首相になれば、企業や官僚組織のトップや幹部に女性が次々と起用される。社会のあらゆる場面で女性の進出が劇的に進んでいくことになるのだ。

しかし、現在のところ高市氏が決選投票に進むという情勢分析はあまりでていない。よくて3位というところか。もし、高市氏が首相になっても、はたしてそれをどれだけの議員が本気で支えようとするのか。なかなか現実は厳しいというのが、残念なところである。


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