つぎはぎのように

 50代男性:現在会社員。


 今からもう30年ぐらい前でしょうか。地元でしばらくぶらぶらした後、映画の仕事に就きたい、と決めて沖縄から出てきたばかりの私は、高円寺の外れに小さなアパートを後輩、先輩と三人で借りて住んでいました。
 最寄りの小さな駅から30分ぐらい歩いた所でね、うっそうとしたお寺さんの林のそばに、ぽつぽつとアパートが建ってる以外、コンビニの明かりさえ遠くにしか見えないようなトコでした。
 最初にやったことが、「ブラック・レイン」っていうリドリー・スコットの映画のポスターを貼ったことでしたよ。
 当時目標でしたからね。リドリー・スコット。あと松田優作は僕らに取ってヒーローでしたからね。
 松田優作の遺作ってのもあったし。
 ポスターはあれです、海外版の、グラサン描けたマイケル・ダグラスが腕組みして立ってる上半身の奴。
 私の名前を仮にAとすると、先輩はB、後輩はC、と呼んだ方が楽ですかね。
 三人とも地元にいたときから映画作りに燃えていて怖い物知らずでした。
 何しろ80年代にアマチュアで映画を撮るってのは、ある意味警察に掴まったり、場合によっては警察やヤクザと追いかけっこになっても構わない覚悟が必要だ、とされてた時代で、私たちもご多分に漏れず、それを実践していたわけです……いやー今考えればアホですよね。


 うちひとりのCというのは、ちょっと「見える」人の弟だったんですけど、まあ気配を感じる程度で、沖縄に居たときは普通に「出る」って場所でロケしてても「いるっぽい」というぐらいだったんです。
 六畳二間のアパートの襖をとっぱらって、ベッドとソファ、で冬は寝袋、夏はそのまま雑魚寝する、という具合で専門学校行ったりバイトしたりの日々を……と思ったら、一ヶ月もしないうちにベッドの主のCが「ベッドは嫌だからソファにしてくれないか」って言ってきたんですよ。
「なんで?」
 って聞いたら「覗かれてる」と。
 寝転がって目を閉じたら誰かに覗き込まれてる気配がする、っていうんですよ。
 私、ベッドにもたれて本読んでいたんですけれどもね。
「オレの気配を間違ってそう感じたんじゃないか?」
 って聞いたら「違う」と。
「実は言ってなかったんですけれど、俺、ここに来たその日から『覗かれてる』感じがずーっとしてるんですよ」
 と。
 東京で慣れない生活始めたから、慣れてないのかな、って思って私は彼とベッドとソファを交換したわけですよ。
 寝てみたら……一週間経っても何も起こらない。
 まあ、そういうもんだろうね、と思いました。
 Cは結構ナイーブな奴だったんで、多分それで疲労がたまったんだろうって。
 とはいえ、ソファよりはベッドのほうが寝心地はいいんで、ラッキーだなあ、と思っました。
 で、半年ぐらいたったある日、バイトから帰ってきたら部屋の電気が全部ついてて。
 電気代節約しよう、ってんで必ず最後に出た奴が電気を消すのがルールだったんですけれど、B先輩がよく忘れたんですよね。
 さすがに今度は注意しよう、とか思ったんですけれど、その日は欲しかった映画関係のハードカバー本が、駅の構内でやってた古本市で思いがけないぐらい安い値段で買えて、ほくほくしながらベッドに寝っ転がって読んでたんですよ。
 結構キッツイバイトだった後もあって、ウトウトしはじめて、でも本は最後まで読み進めたいから眠気覚ましにメタリカとかのCDかけて、それでもウトウトしてくるもんだから「こりゃだめだ」と思って本閉じて、目を閉じたまま、仰向けになったら、

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