トゥルルル、おかけになった電話は


トゥルルル
「あ、はい、どうも○○です」
「お久しぶり、K君」
「ああ、どうもお疲れ様です先輩」
「最近、どないしとん?」
「いえ、その……まあえーと」
「どしたの?」
「色々ありまして、今、っていうか今度っていうか……小説家になりました」
「えー! ほんとなん?」
「ええ今度の12月の末、本が出ます」
「そうか、必ず買うわー! いやー、おめでとう!」
「ありがとうございます」

トゥルルル
「あ、どうも先輩」
「K君、小説の売れ行きはどない?」
「いやぁ、売れてるんですかね、よく分からないんですよ、何しろ(  )部出た、ってことでお金はどばーっと入ってきましたけど」
「へー、どのくらい?」
「えーとですね……×××円の、××%の……」
「へー、お大尽やなぁ」
「いやぁ、わははは」

トゥルルル
「K君、最近どない?」
「ええ、この前ね、ようやく再版かかりました!」
「おー! 凄いじゃない。ますます作家として上のレベルやね」

トゥルルル
「K君、最近どない?」
「なんかどーも良くないみたいで。せっかく出したんですけれど、編集部は前の巻の再配本しないんですって……やっぱり〆切に二週間も遅れたんで、発行も半年先だし」
「えー! そうなん? ひどいなあ」
「いやあ、大きなレーベルですから。でも、次の巻とさらに次の巻は立て続けですから……っていっても、書いてたら長くなって分冊なんですけど」
「でもまあ、再版掛かった作品の続編だもん、そりゃ売れるよ、大丈夫」

トゥルルル
「K君、どないだった?」
「えーとですね、駄目でした(溜息)」
「あー、そうかぁ……やっぱ再配本なかったんが敗因かね? 俺は面白かったんだけどなあ。ほら、クライマックスの戦闘シーンで主人公がさ……とか」
「ありがとうございます(ちゃんと読んでくれてたんだ)、あの、今度から新刊、先輩の所に送りますよ」
「いいよ、良い物は買う主義だから、ね?」
「あ、はい……」
「でも残念やったねえ。あれだけ頑張ったのに」
「ええ。でもこんど××から新作出ます」
「えー! あの大手?」
「ええ、僕も先輩も買ったあのレーベルからです」
「おお、感慨深いなぁ。これで君も○○先生や××先生と肩を並べるんかー。偉いなあ」
「いや、偉くないっすよー」

トゥルルル
「おお、K君、あれ面白かったよー」
「ありがとうございます。なんとか続かせて貰えるみたいです」
「そーかー、良かったなー」
「ええ、本当にホッとしました」
「これでアニメ化とかされたらええやろね」
「そうですねー、挿絵も○○先生ですし」
「そうだよ、○×先生だもの。あの○××書いてた人だぜ?」
「ええ、いい人でしたよ、電話でも凄く親切で」
「そーかー、よかったなー。そうそう、こういうアイディアを次はどう?」
「……あ、なるほど、じゃあそれ、ちょっと使わせてもらうかも知れないです」
「そうかー。役に立てて嬉しいわー!」

トゥルルル
「先輩、どうしてます?」
「いやー、新しい職場、パソコンいじれるようになったんだけどな、きっついわ」
「あ、そうなんですか」
「どーもなあ、職場のネーちゃん達に俺、嫌われてるみたいなんだわァ」
「そんな、どうして?」
「いやあ、ほら、エクセルあるやろ。その使い方がみんな下手くそでナア、俺、手伝うつもりでアレコレしたら『気持ち悪い』って」
「そんな……ひでぇなあ!(怒)」
「やっぱりナア『親切にしてくれる男はモテる、ただしイケメンに限る』やな(苦笑) もっとも、俺の教え方が悪かったのかもしれん。もうちょっと丁寧にやるべきだったかもなぁ」
「ですかねえ……?」

トゥルルトゥルルル
「K君、久しぶり~」
「あ、先輩」
「今度の新レーベルのあの作品、凄いやん。あれ、売れるよ、うん。俺この辺のラインからは遠ざかってるけど、あれは売れるわ−」
「あ、そうですか? 実は再版掛かることが決定したんですよ!」
「おお、そうかー」
「今度は前のやつみたいに時間かけて売る時期を逸するのはイヤですから、頑張って何とか来月には原稿仕上げます」
「お、いよいよK君も売れっ子作家やな?」
「そうなれるように頑張ります(笑)」

トゥルルトゥルルル
「ご無沙汰してます、先輩」
「おうおう、K君か。あのシリーズ、続いてるねえ、ちゃんと買って読んでるよ。面白いなあ、あれ」
「ありがとうございます」
「俺もライトノベル、書いてみようかなあ。今の職場、ちょっとキツいんだよね。もうさ、仕事を辞めて作家になろうかと……」
「いやいや、先輩、仕事辞めるのはいつでも出来ますよ。少なくとも作家で儲けたお金が年収を上回るか、出来れば倍になるまでは止めない方がいいですって」
「そういうもん?」
「今はもう昔と違って初刷りは(    )部が当たり前ですから」
「え? そんなに下がったの?」
「ええ、うちはありがたいことに一巻が当たったんで今(    )部ですけれど」
「そっかー。どこも厳しいんやなぁ」
「ですよー」
「そういえばな、今回のお話でこういうのがあったでしょ? あれから思いついたんやけどね……ってのはどう?」
「ああ!いいですね、ちょっと使えるかも」
「そう?(嬉しそうに) でな、こういうのもあるんだけど……」
「(いや、そっちはちょっと使えないかな?)ああ、なるほど、ちょっと使えるかも知れないのでいただいておきます」

トゥルルル
「あ、お久しぶりです、先輩」
「おう、K君。あのシリーズ、順調に出てるねえ」
「ええ、おかげさまで」
「そうそう、知り合いのA君がな、君のキャラクターを何人か作りたいんやて、良い腕しとるんよ、許可、降りるかな?」
「ああ、それはもう構わないですよ、Tさんから一度Aさんの作ったガレージキット、見せて貰いましたし」
「そっかー、よかったー。いや本当良い腕なんよ」

トゥルルル
「あ、この前はどうも、先輩」
「会場ではあんまり話でけへんかったねえ。どう、元気?」
「帰ってきてからちょっと倒れてましたが大丈夫です(笑)」
「そっかー。そうそう、この前のやつ、彩色サンプルは君の所へいくん?」
「ええ」
「あれなー、俺が塗ってるんだよ、あのキャラと、あのキャラ」
「えー!」
「ただなー、ごめんなー。設定が見つからなくな、あの箇所とこの箇所、差し色が違うねん。Aくんはちゃんと資料渡してくれたんだけどな−」
「いや……えーと今実は私の手元にあるんですけれど、ちょっと虫眼鏡で見ないと判らないレベルですよ」
「いやー、そっかー。でもまあ、ごめんな」
「いいですよ、あやまるような出来の物じゃないじゃないですか」
「そういえば今年もそろそろ終わりやねえ」
「そうですねえ」
「来年はいいこと、あるとえーねー」
「ですねえ……」

トゥルルトゥルルル
「……あれ?」

トゥルルルトゥルルルトゥルルルトゥルルル
「あれ?」

トゥルルルトゥルルルトゥルルルトゥルルルトゥルルルトゥルルル
「?」

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