「君たちはどう生きるか」感想と邪推と(※ネタバレあり)
世の中には、「その日に見なければ、おそらく生涯見ない。あるいは、見たとしても数年後になる」と言う映画がある。
まさに、この映画は公開初日に見なければ、おそらく私は生涯みることのない映画になったかもしれない。
webを眺めていると「本当に何の宣伝もしなくていいのか?」みたいな記事がちょろちょろ流れてきて「そうか、もう公開か。本当に宣伝しないのか、へー』程度には認識していた。
「とはいえ、観に行くほど宮崎駿信者じゃないしなあ……まあ、多分、どこかテレビで放送したときに見るか、甥っ子姪っ子にせがまれてBlu-ray買うとかかなあ」
とぼんやり思う程度。
そうならなかったのは、友人のTさんの電話である。
突然の電話だった。
いきなり公開初日の夕方、電話が鳴り、ひとしきりの挨拶が終わるとTさんはこう切り出したのだ。
「なんか、このところいろいろあって、目上の人に説教くらいたい気分なので、一緒に宮崎駿の新作、映画、見に行きませんか?」
この言い回しが良かった。
まず、「説教されに行く」というのが、当時の「君たちはどう生きるか」の前評判から推察される内容の具体的なイメージであった。
あの宮崎駿が、と言うより、あのクセモノ、鈴木敏夫プロデューサーが、一切の宣伝をしない、と言う大胆な手法で、ジブリのブランド力と宮﨑駿と言う監督のネームバリューを信じて世に送り出すという人前代未聞な代物。
しかも、アニメ制作会社としてのスタジオジブリはとっくに解散しており、一体どういう制作体制なのか判らない。
原作とされる同名の本も、戦前からある一種の少年向けの啓蒙書である。つまりどちらにせよ「上から下へのお言葉」であることは想像に難くない。
となれば、今回の映画は間違いなく、自分の趣味と夢がアンモラルなものであることを詫びて、そして開き直る「風立ちぬ」とは違い、宮崎駿が若い世代に向けた「遺言めいた説教」ではないか?というのが当時の下馬評だったのである。
ただ、初日に観に行かなければあっという間にネタバレが横行し、感想も横行し、見るまでもなく丸裸にされてしまうだろうという予感もあったが、それほどの興味もなければ、宮崎ファンというわけでもない私としては、こんなきっかけでもなきゃ、行きはしない。
そんな中、自分と同じ考えの人がいるというのが面白かった。
これは「縁」ってやつだな。と思った。
となれば見に行くしかない。
このところ昨日塞ぐことも多かったので、私は早速Tさんの車で映画館に向かうこととなった。
結論から言う。
この作品は、宮崎駿監督の「説教」ではなかった。
この作品を一言で、下世話に表現するのならば、「宮崎駿によるなろう小説」と言えるだ
ろう。
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