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広い駐車場の真ん中に停めるお客様

 私のお店の駐車場には、車が3台ほど停められるスペースがあります。お客様が来られますと、大抵の方は端っこに停めてから来られます。

 私は整体のお店を一人でやっています。予約を受ける時は、30分ほど間隔を置いて受け付けるようにしています。時間通りに来られる方はまれで、大抵の人は時間より早く来たり、あるいは遅れて来る人もいらっしゃいます。

 遅れて来られた場合は、次の人に対してスタートが遅くなってしまいます。「約束は守るもの」という私の性格上、予約してくれた人に負担をいるのは心苦しいので、いろんな場合を想定して30分の時間的余裕を持つようにしています。

 大抵のお客様は早く来られます。10時からの場合、10分ほど早く着いて車の中で待っていらっしゃるわけです。

 時にお客様が、「延長出来ますか?」とおっしゃる時があります。いつもなら60分コースの方が、20分延長したいと。

 そうしますと、気の早い次のお客様が車で到着する事になります。そうして、駐車場に車が2台という現象が起きるわけです。

 大抵のお客様はそれを知っていますから、皆さん端っこから停めて、次の人のスペースを確保してくださいます。3台は停められるわけですから、余程おかしな停め方をしない限り、2台目を停めるのは余裕です。

 ところが、今日のお客様は真ん中に停めて来られました。しかも、いつものように縦に駐車ではなく、中央に横という形だったのです。

 その方は初めて来られた方で、年齢は60代後半から70代くらいの女性。話し方は穏やかで、とても品のある感じでした。

 それだけに、私の頭の中では「どうして真ん中に停めたの?」と言う疑問がぐるぐる渦を巻いています。

 推理好きなクセに推理小説が書けない私は、施術をしながらその理由を考えました。

 普通に考えると、端っこに停めようと思ったけど運転操作が上手くいかず、「ま、いっか」と思って真ん中に放置。

 私などは小心者ですから、例え自分が予約を取っていたとしても、「誰か突然、来るかも知れない」と思って、出来るだけ人に迷惑がかからないように最適解を見つけようとしますが、このお客様は平然と入ってこられました。

 その様子から「もしかしてこの人は、生まれが高貴なお嬢様。世が世ならお姫様なのかも知れない」「一般庶民の考えとは違う次元で生きてきたのかも知れない」と言う推論が浮かんできます。

「私が真ん中に停めたいんだから、良いじゃない。何がいけないのかしら、ホホホ」

 実際はそんな事は言われませんが、腹の中ではそう思っているのではと考えたりします。

 そして更に私は「どうせあんたんとこ、お客さんなんて来ないでしょ?」と暗に言われているような気がして、被害妄想が膨らんでいくのでした。

 施術が終わり、大層喜んでいただいて、「しばらく通いたいので回数券をください」とおっしゃり、回数券を買ってくださいました。

 暑さのおかげで客足が遠のいている事に悩んでいた私は、思いがけない収益増に、さっきまでのモヤモヤが吹き飛んでしまいました。

 結局、誰も来なかったので駐車場問題は起きなかったのですが、次回来られた時にまた「真ん中に横」で停めるのかどうか、今からちょっとドキドキしています。

 

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神野守
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