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【アカペラで歌ってみた】アン・ルイス「六本木心中」

アン・ルイスさんの「六本木心中」をアカペラで歌ってみました。

 この歌を元に書いた短編「紅く染まる桜吹雪」は【切ない恋愛短編集 11】の109話になります。

 少しだけ作品を紹介します。

 深夜の薄暗い部屋に、戸外こがい喧騒けんそうが聞こえてくる。酔っぱらいのケンカや男女の言い争いは、この街では日常茶飯事である。石田アンナはテーブルに頬杖をつきながら、ウイスキーをいだグラスに口をつけた。ヤクザの情夫に殴られた傷が痛々しい。

「俺、アンナさんのためなら死んでも良いです」
「……あんた、軽々しくそんなこと言っちゃダメだよ」

 そう言ってアンナは、ソファーに横たわる村田健次郎の髪を優しくでる。

「アンナさん、俺の桜吹雪さくらふぶきはどうですか?」
「……いよ、すごく綺麗だよ」

 ボコボコに殴られ、背中は傷だらけ。桜吹雪は血であかく染まっている。何度となく見てきたその彫り物が、今までで一番輝いて見えた。

「アンナさん、俺、カッコ悪くてすいません」
「なに言ってんの健次郎、あんた、最高にカッコ良いよ」

 アンナは傷だらけの背中を優しく撫でた後、真っ赤な桜吹雪に口づけをする。

「ごめんね、あたしがあんな事、言ったばっかりに……」
「なに言ってんですか。俺が好きでやった事ですから」

 健次郎は、兄貴分の古田浩市にアンナを開放してくれと頼んだ。しかし、古田の逆鱗げきりんに触れてボコボコに殴られてしまう。

「アンナさん、俺で良いんですか?」
「あんたが良いんだよ」
「俺、ヤクザ向いてないっす」
「うん、あたしもそう思う。あんたは人が良すぎるもん」
「ですよね。借金の取り立てに行って、相手の話聞いて泣いちゃいますから」
「そこがあんたの良いところだよ」
「兄貴みたいに非情になれないっす」
「あいつは鬼だからね。平気であたしを蹴飛ばすんだから。この入れ墨だってやめてって言ったのに」

 右腕に彫られた薔薇ばらをさすりながらうつむくアンナ。

「俺、アンナさんのそれを見て、入れ墨入れようと思ったんです」
「そうなの? なんで?」
「アンナさんが無理矢理されたって聞いて、俺も本当は怖かったけど、同じ立場になりたかったから」
「あたしのために?」
「同じ気持ちになりたかった。アンナさんが体を傷つけたなら、俺も傷つけたかった」
「健次郎……」

 瞳を潤ませながら、アンナは健次郎の胸に顔をうずめる。いつもモノのように扱う浩市に比べ、不器用ながら全身全霊で愛してくれる健次郎がいとおしい。

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神野守
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