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【アカペラで歌ってみた】グレープ「無縁坂」

グレープの「無縁坂」をアカペラで歌ってみました。

 この歌を元に書いた短編「思い出の坂」は【切ない恋愛短編集 9】の81話になります。

少しだけ作品を紹介します。

「暑いね」
「そうだね。今日は一段と暑い」
茉奈まなちゃん、大丈夫?」
「うん」

 右手は小さな茉奈の手を握り、ハンカチを持ったもう片方の手でひたいの汗をぬぐ香奈江かなえ。その少し前を歩くのは、夫の省吾しょうご。夏の日差しを恨めしく思いながら、三人は坂をのぼっていた。

「香奈江さんは、この坂を上るのは初めてだよね?」
「そうねえ。前に来た時は車だったもんね。でもたまには、歩いてみるのもいんじゃない?」

 息を荒くしながらも、香奈江は笑ってみせる。こういうポジティブさを見習いたいと、省吾は思った。悲観的でネガティブなところは、母からもらったのだろうか。りし日の母の姿が思い浮かぶ。

「この坂はさ、小さい頃によく、母と一緒に上ったんだ」
「そうなの?」
「うん。あの頃は、どうしてこの坂を上らないといけないのかわからなかった」
「へー、そうなんだ。じゃあ、その理由はもうわかったの?」
「うん……」

 省吾は、話を続けるべきかどうか少し悩んだ。母と自分だけが抱えてきた秘密。その母は、三か月前に亡くなってしまい、母子家庭だった自分の家族は目の前の二人だけ。「もう話しても良いよね、母さん」と心の中でつぶやいた後、この坂を上った理由を話し始めた。

「実は僕は、不貞ふていの子なんだ」
「不貞?」
「うん。母が、あるお金持ちの屋敷の家政婦をしていた時、そこの旦那さんと愛し合うようになって、僕を身ごもってしまった。それを知った奥さんが怒って、母を追い出してしまった。母は身寄りがなかったから、一人で僕を生んで育てたんだ」
「そうだったの。お義母さん、相当苦労されたのね」
「うん……」

 省吾は小さく溜息ためいきをつきながらうなずいた後、再び前を向いて話し始める。

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神野守
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