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赤い車と自転車のおじさん

 銀行に行こうと思い、車で国道を走っていました。すると前方に赤い車と自転車のおじさんが見えました。赤い車は工場の駐車場から国道に出ようとしています。それを見た自転車のおじさんは赤い車の前で停まりました。

 交通量の多い国道です。赤い車は出たくても出る事は出来ません。自転車のおじさんは赤い車が出るのをひたすら待っています。私はそれを横目で見ながら思いました。「自転車のおじさんが素早く通り抜けてあげたら良いのに」と。

 私は車に乗る事が多いので、どうしても赤い車の運転手の立場で考えてしまいます。自転車のおじさんが停まってくれているのは素直にありがたいです。きっと善良な心の持ち主なのでしょう。だからこそ、すぐに車を出してあげられないのが心苦しくなります。

 平日の昼間にのんびりと自転車に乗っていらっしゃるのですから、定年で仕事をリタイアされた人なのかも知れません。「別に急いでないから良いですよ」と心の中で言っていたかも知れません。

 でも赤い車の人にはおじさんの心の声は届きません。心優しき人なら「おじさんを待たせて申し訳ない」と思っているかも知れません。赤い車の人としては「車が続いているからすぐには出れません。出来ればお先に通ってください」と心の中で言っているかも知れません。

 私はどうしても運転する側で考えてしまいます。待ってもらうのが却ってプレッシャーになるのです。待たせて悪いという思いがストレスになってしまうのです。

 しかし自転車のおじさんは、赤い車の運転手の気持ちを知ってか知らでか全く動く気配がありません。あくまで事故を防ぐために用心に用心を重ねているのでしょうか。

 すると私の中で一つの仮説が浮上しました。もしかしたら自転車のおじさんは「悪意を持って待っているのかも知れない」と。赤い車の運転手と何か因縁があってわざと困らせているのではないか。

 もしかしたらおじさんの娘さんがあの赤い車の運転手に振られてしまい、そのショックで自ら命を絶ってしまったのかも。ずっと探していた相手をようやく見つけ「これは千載一遇のチャンス」とばかりに、車が動いた瞬間に轢(ひ)かれてしまおうと思ったのかも。

 あるいは「コンコン」と窓を叩き、「何ですか?」と運転手が開けたところを持っていたサバイバルナイフで心臓を一突きする、なんてシナリオを考えていたのかも知れません。

 その後あの二人がどうなったのか見届ける事も出来ずに、私は通り過ぎるしかありませんでした。用事を済ませてからもどうにもモヤモヤが治まらない私は、今こうしてnoteに吐き出すしか術がないのでございます。


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神野守
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