鬼妃 ~「愛してる」は、怖いこと~
さて、本日紹介する本は、鉈手璃彩子先生の『鬼妃 ~「愛してる」は、怖いこと~』です――。
本作はカクヨムweb小説コンテストホラー部門の特別賞受賞作です。
最近、カクヨムを始めとしたweb小説出身の作家が、もの凄く増えて来ましたね。
賛否あると思いますが、私個人的には、本当に素晴らしいことだと思っています。
デビューのチャンネルが増えることで、作品の幅が広がりますし、普段、読書をしない人も、web小説きっかけで本を読むようにる――なんてこともあります。
何より、埋もれていた才能を発掘する機会にもなります。新人賞では選外でも、才気溢れる作品というのはあるのですよ。
新たな才能が生まれることこそが、小説界にとって何よりのカンフル剤ですからね。
と、前置きが長くなってしまいましたが、本題に入りましょう。
あらすじ
動画サイトに怪談朗読を投稿している大学生の亜瑚。幼馴染みの知景の訃報に触れ、帰省するのだが、葬儀の場で告げられたのは「お前のせいで知景が死んだ」という辛辣なものだった。
亜瑚は鬼に纏わる村の言い伝えを、朗読して動画サイトに投稿していたのだが、それは話すと祟られる忌み話だった。
それをきっかけに、次々と起こる惨劇――心身共に追い詰められていく亜瑚だったが、鬼の呪いを解くために調査を開始するのだが、そこには、想像を絶する真実が待っていた。
あらすじだけ読むと、よくある怪異を扱ったスプラッターホラーかな? と思うかもしれません。
しかし、その認識は間違っています!!
本作は、単純な血塗ろ作品ではありません。
序盤はホラーのテイストで進行するのですが、途中からミステリの様相を呈して来ます。
さらに、そこから鬼とは何か? を読者に問いかけながら、登場人物たちがそれぞれに抱える鬼の部分に切り込んで行く。
民俗学的な観点から、鬼について掘り下げていて、そこも後々利いてくる。
怪異を扱いながら、全てを怪異のせいにするのではなく、しっかりと世界観を作り込んだ上で、人の心の部分に寄り添っているのも、実に興味深い。
そして――
何より、本作の特質すべきは、タイトルにもある通り、「愛」と「怖い」という対極にあるものを、テーマとして据えたことにあるような気がします。
「愛」というと、とかく美しいものとして描かれがちだが、それを「怖い」と表現するところは、鉈手璃彩子先生の独自性と感性の鋭さを感じます。
物事の捉え方が、他の人は違う。これは、作家性とも呼べるものです。
多分、この作品を書けるのは、鉈手璃彩子先生だけなのでしょう。
主人公の亜瑚はもちろん、知景や村の人々、その他登場人物たちが、それぞれに抱える「愛」と、それ故の怖さというものが、鮮烈に描き出されている。
読後、この作品の恐怖の肝は「愛」なのかと、気付かされることでしょう。
これ以上、書いてしまうと読む楽しみが減ってしまうので、この辺りにしておきますが、ジェットコースターのように、読者の心をかき乱す、素晴らしい作品なので、興味の湧いた方は是非!!