七十四秒の旋律と孤独
これは、とんでもないSF小説が誕生しました!!
私、個人的には、フィルップ・K・ディックを初めて読んだときのような衝撃を受けました。
本作は、創元SF大賞短編賞を受賞した、表題作の「七十四秒の旋律と孤独」と、同一の世界観の中で描かれた「マ・フ クロニクル」の二部構成になっています。
短編の「七十四秒の旋律と孤独」は、ワープ航法を行った際に生じる空白の七十四秒間を舞台に、無防備になった宇宙船を守るアンドロイドを描いた作品です。
時間が制止していて、生物が知覚出来ない世界の中で、孤独に闘うことになるアンドロイドは、何を見て、そして何を守ろうとしたのか?
短編であるにも関わらず、密度の濃い物語は、読み応えたっぷりです。
何より、久永実木彦先生の描き出す世界の美しさよ――。
宇宙船の造形とか、SFアニメ好きにはぶ心の芯にぶっ刺さります。
オブジェクトだけでなく、制止した空間の光景、さらには戦闘シーンに至るまで、全てが美しく彩られ、圧巻という他ありません。
銃の火花を花弁と捉える描写には、震えました。
実写もしくは、アニメ化作品として観てみたいですね。
そして――。
中編の「マ・フ クロニクル」は、世界観を共有しながらも、全く異なる物語を紡いでいます。
突然、宇宙船の中で目覚め、自分たちの存在理由すら分からず、途方にくれたマ・フと呼ばれるアンドロイドたちは、船内で見つけた作業仕様書を経典と崇め、それを指針として、惑星の観測を始めることになる。
惑星Hに辿り着いた8人のマ・フは、経典に定められた通りに行動し、自然に干渉せず、観測する毎日を一万年亘って繰り返していた。
だが、そんなマ・フたちの前に、滅びたと思われた、創造主であるヒトが現れる――。
ヒトと関わることで、これまで平穏だったマ・フたちの間に、軋轢が生じていく。
それが、生み出すものとは、いったい何なのか??
序盤は惑星Hでの普遍的な日常が、淡々と紡がれていきますが、決して退屈には感じません。惑星の自然環境や生き物たちの姿は美しく、楽園を散策しているような気分で、いつまでもこの世界に浸っていたくなる。
物語が進み、あることをきっかけに、平穏だったマ・フたちの日常に歪みが生まれ、変化を余儀なくされます。
変化によってもたらされるのは、破滅か? 或いは創世か?
詳しく書いてしまうと、ネタバレになるので、詳細は控えますが、描かれる物語は、荘厳で神秘的な空気を纏っています。
段々とマ・フたちが、神話の神々に見えてくる――おっと、これ以上はダメですね。
SF好きも、そうでない方も、是非読んで頂きたい一冊です!!
補足
フィリップ・K・ディック
アメリカのSF作家。「ブレードランナー」「トータル・リコール」「マイノリティー・リポート」など、大ヒットSF映画の原作者としても知られているだけでなく、小説、映画を問わず、数々のSF作品に影響を与えた偉大な作家。