見出し画像

【書評】第3セクターのマネジメント-北海道ちほく高原鉄道の事例研究-

菅原浩信「第 3セクターのマネジメント一北海道ちほく高原鉄道の事例研究一」担当:獺祭

[本書選択理由]
第3セクター鉄道がJR線と共存する方法と線路使用料に頼らずに経営維持する方法を模索している。第2次特定地方交通線と現在取り扱っている第三セクター鉄道とは形態が異なるが、既に2008年に廃線してしまった『失敗例』として本事例を取り上げるべく選択した。なお、論文が書かれたのは1998年であり、廃線の10年前である。

[要約]
◆背景

第 3セクターは1980年代に急激に増加。その背景は主に
①地方自治体における地域振興対策の必要性
②地域住民のニーズの多様化・高度化
③民間企業における経営多角化の必要性
④民間企業の社会貢献活動の活発化
⑤国による法的整備
→しかし、 1990年代に入ると環境の変化や不適切なマネジメント等により深刻な経営難に陥っている傾向にある。
◆マネジメントと目標
①地域振興を目的とする第 3セクターにおいても企業性を発揮すべき
②赤字事業の場合でも地域に必要性があれば第 3セクターは提供を継続すべき
③第 3セクターが企業性を発揮することはそのサービス自体の公共性だけではなく、出資や補助金を提供する地方自治体の財政の負担を軽減する
◆目的
第 3セクターのマネジメントを全体として分析すること
→これまで部分的・断片的な物が多かったため、全体を通して該当路線の特徴等をつかみ、分析をする
◆第3セクター鉄道のマネジメントを構成する要素
環境 技術 戦略 組織特性 組織成果
◆各要素間の相互関係
・組織特性は環境 技術 戦略によって異なる
・第3セクター鉄道が高い組織成果を実現するための有効な方法として、直面する環境状況を的確に認識し、課せられた組織目標を達成すべきものとしてより具体的に特定すべき
◆マネジメントに関する研究を進めていくために必要な分析
①第3セクター鉄道の組織成果に関する指標の特定化と体系化
 第3セクター鉄道が提供する鉄道旅客輸送サービスは主として沿線地域の住民からのニーズがあるにも関わらず、その規模が小さいことから採算を確保することは困難。民間企業や行政等とは異なるマネジメントが求められる。
→民間企業や行政等とは異なる独自の組織成果の評価方法を構築
→社会的有効性についてその指標の特定化と体系化を図り、地域社会における位置付けを適切に行うことが必要
②第3セクター鉄道の正当性の獲得・維持のメカニズムの解明
 組織における正当性=組織の活動が法律や社会の期待と適合している際に付与される経営資源。第3セクター鉄道の設立は関係する地方公共団体・企業・住民等がその正当性を認めたことを意味する。
→組織の正当性を経営資源の1つとし、第3セクター鉄道が提供する鉄道旅客輸送サービス等が関係する地方公共団体・企業・住民等にとって必要なも
のであり、その提供方法も妥当であると認める場合にのみ、第3セクター鉄道は組織としての正当性を維持できる。

[批判・感想]
第2次特定地方交通線が盛んに設立されてすぐに廃れていることは不適切なマネジメントだけでなく、環境に要因があることに驚いた。公害等も落ち着いている時代である中、どの点に問題があったのかを明らかにしたい。
研究対象地において、本当に第3セクター鉄道が地域に求められ、必要とされる路線にならなければ経営の維持が難しいことを再認識した。仮説として提唱している『対都市圏交通こそが地域のニーズ』である点について再考しなければ、経営は難しくなるのではないのだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?