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[0012]自動車ガイドブックvol.16

[0012]自動車ガイドブックvol.16
「おやじの遺品を整理していたらさ、こんな本が出てきたんだ。」
友人の「M」はどさっと本をテーブルに放り出した。
ちょっと厚みのある茶色くなった古本だった。

自動車ガイドブックvol.16


「自動車ガイドブックvol.16」
1969年11月24日発行
編集・発行 自動車工業振興会

「へぇ」
私はパラパラとページをめくった。
1969年〜1970年の自動車が網羅されている。
「この頃の自動車デザインはレトロフューチャーな感じがいいよな。」
「たしかに。」
「で、さあ、このあたりの車のプラモ作りたいんだよ。あるかい。」
「M」は本を取り上げページをめくって、ポンポンと写真を指さした。

トヨタ2000GT
マツダコスモスポーツ


マツダボンゴ


[トヨタ2000GT]
[ダットサンフェアレディSR311H]
[コロナマーク2]
[マツダルーチェロータリークーペ]
[マツダコスモスポーツ]
「いいよな〜。」
「M」はうっとりと言った。
「本物を買えばいいじゃないか。」
「そんな金があったらお前の店なんか来ないよ。」
「相変わらず、イヤな性格してんな。帰れ。」
こんどはニヤニヤしながら、
「まあ、プラ模型なら大富豪ばりに数を揃えられるからな。買うよ。」
「俺はマツダコスモスポーツがいいな。」
「俺はトヨタ2000GT、あるかい。」
私はパラパラとページをめくっていて、ふと指が止まった。
「なあ、何でこのページだけ端が折ってあるんだい。」
「えっ。」
後ろの方のページだった。
「M」は本を受け取り、そのページを見た。
小型車、軽自動車のコーナーだった。

ホンダN360


「ホンダN360」
当時の庶民的な、ごく平凡な軽自動車。
「M」はしばらくそれを見ていて、
「プラ模型、ホンダN360あるかい。」
と静かに言った。
「それがあれば。買っていくよ」
「M」はじっとそのページのホンダN360の写真をみていたが、指はそのページの折れた角をいじっていた。

「M」は何かを思い出しそうになっていた。
私は「M」の顔を見て、
「あるよ」
と言った。
私は店の奥に行きホンダN360のプラ模型を探しに行った。

「M」は思い出していた。
車を運転している父。
後部座席に座る母。
どちらが助手席に座るかで、いつも喧嘩していた自分と弟。
自分が助手席に座った時、車を出発するときは必ず
「発進!」
と言って前方を指さしていた。
狭い軽自動車の車内に父と母、自分と弟。
四人でいろいろな所に行った覚えが浮かんで消えた。
三男が生まれた時にホンダN360をやめ、五人乗れる日産サニーに乗り換えた。
たぶん、父は数年しかホンダN360に乗ってないだろう。
だが、車と言う大きな買い物、何度も何度もこの本を見ながら金額だけでなく、家族の事も考えながら読み返したのだろうか。
そして初めて買った車。
ホンダN360

「M」はプラ模型、
(アリイ)1/32オーナーズクラブ(5)ホンダN360
を買った。

(アリイ)1/32オーナーズクラブ(5)ホンダN360


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