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映画ラストマイル <ネタばれ考察>
2024/10/19 ネタばれ考察です。 今回は「日本とアメリカ」に絞ってお伝えします。 まずは、この映画の見どころですが TBSドラマの集大成のようなクロスオーバー作品です。 「アンナチュラル」や「MIU404」と世界観を共有しているのでドラマからのファンにとってはたくさんの伏線やクスリと笑えるシーンが多いのが魅力です。 また、まったくドラマを見ていない方も単作品として十分楽しめる骨太な設定とストーリーですので問題なく楽しめます! この映画の舞台は「物流」が根底にあります。 そこに「爆破テロ」の事件が展開していきますが、個人的には日本企業の弱さとアメリカ依存社会の恐さを感じました。 というのも、過酷な労働環境において、人的資源を「派遣」にたより「安価」で消費者に”考えない自由”を与え依存させている現実をここまでリアルに 企業目線で語っているのも珍しいと思うからです。 この映画ならではの登場人物として、 社会的経済弱者である「委託ドライバー親子」と「シングルマザー」、そして「外資大手ネットショップ」「運送会社」があります。 この関係をそれぞれ見ていくと、人の命を軽んじて利益重視に陥っている資本主義の問題点が浮き彫りになってきます。 ・委託ドライバー親子の視点 70歳を過ぎても働き続ける父と元中小家電メーカーの40歳息子が日々の糧のために配送しているシーンから物語は始まります。 この冒頭のシーンがまさにリアル。良く考えてみてください。 なぜ70歳まで働いているのか?年金はもらえているのか?、息子はなぜ他メーカーに再就職しないのか?なぜ、母親の話は出てこないのか? これらが日本の今の現状なのです。 物語の中盤、車の中でお弁当を食べるカットがあります。このお弁当がシンプルながらとてもきれいに詰められているのにお気づきでしょうか? 母親の話が一切出てこない親子の会話ではいつも息子が”父親の体調”を気遣っています。明確な答えはでていませんが、おそらく息子が毎日、父親の分まで丁寧にお弁当を作っているのだと思います。少しでも父の仕事を手伝ってあげたい。長く一緒に居てあげたいという彼なりの親孝行なのでしょうね。 終盤では「配送料の値上げ」に驚きつつも焼け石に水だという本音がポロッと出てしまう二人ですが、シングルマザーの家庭に誕生日プレゼントを渡して笑顔で最後は終わりました。 ・シングルマザーの視点 40代と思われる企業に勤める母親は毎日疲れながらも懸命に二人の娘のために食事も用意し働いています。愚痴を聞いてくれるのは母親だけ。そのような追い込まれた状況において頼れるものがない不安と母親として、女としての価値観を見失いつつある葛藤が描かれていました。これも今の日本の現状です。 育児に孤立しているシングルマザーの視点では、ぜいたくは出来ないけれど誰にも頼らずに生きていく辛さや覚悟も感じられます。 物語の終盤では、子どもとのシーンが描かれ最後は子どもからの誕生日プレゼントを嬉しそうに受け取っておわりました。 ・外資大手ネットショップ 主人公(満島ヒカル)が務めるいわゆるAmazonの物流拠点。彼女は突然、現れたセンター長としてキビキビと働く姿が印象的ですが彼女も一度、精神を病んだ過去があり厳しい成果主義企業で死に物狂いで働いてきたことが語られます。そして、過酷な労働環境の是正のために一矢報いる行動にでるのです。物語の終盤では、退職することを上司であるアジア支部長サラに伝えるのですが、「あなたもこのレールから逃げることは出来ないのよ」と資本主義社会ひいては消費社会からは逃れられないことを告げてまさに勝ち逃げのように去っていきます。 この絶対評価でのみ本人の貢献度を計るシステムに対して、「日本人はいやだよね」と主人公は日本人の几帳面さや生真面目さを呪うのです。どこでその資質をしかすべきか考えさせられるシーンでした。また「お客様のために」という魔法の言葉を彼女はよく理解していました。それは、「依存させるための方便」であり、長いものに巻かれる日本人にとって効果的な言葉なのでしょう。その自社の利益優先のために運送会社には無茶をさせ圧力をかけることも正当化しています。 主人公自身はそのやり方を理解してはいるものの良心のある行動を心がけ弱者に対しても思いやりのある対応をしていました。 ・運送会社の視点 この作品の一番のかなめであり、一番辛い役回りをしていました。低賃金に人材不足、業務過多というまさに2024年問題のさなかにある現場をリアルに描いていました。 特に上司と現場の判断力の違いにはぐぅの音もでないほど同意する方もおおいのではないでしょうか。日本の中小企業全体における今の問題点を表しています。 これらの人物達の誰かには少なくとも共感できるのではないのでしょうか? そして、アメリカ依存の日本経済においては人命は軽視される恐ろしさも感じられ、日本企業が内需でどこまで成長できるのか?と疑問を投げかける映画だと個人的には思いました。 もう一度みてみようと思います。