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HAMLET 2 #021 過去の無い女

■コンテナ内の食堂

●ジムとフランシスが、お互いのメデューサの知識を共有している。

「そう。メデューサは、マリアの抜け殻なのね」
「あの機械の中で、マリアさんが、そう言っていました」
「揺り籠、ってやつ?あのVFもどき」

●二人の会話に、AIのKIDが割り込む

「揺り籠については、ナカモト様の資料に、似たような記録があります」
「えっ??」
「割り込んで、すみません。ですが、重要な情報だと思いまして」
「いいの。話を続けて」

●AIのKIDが、記憶保持装置について解説する。ジムが質問する。

「あれは、ある種の記憶保持装置でしょう。ナカモト様が、ロシアで受けた治療記録に、似たようなインターフェースの存在があります」
「インターフェース??」
「メデューサの頸椎に繋がる、ケーブルのようなものです。恐らく、あれで記憶を揺り籠に移動したのでしょう。ナカモト様の場合は、その後、機械の体に記憶を移し替えました」
「でも、マリアさんの場合は、記憶は揺り籠に移ったままだよ」
「その理由は、わかりません。それに、ナカモト様が治療を受けたのは、随分と昔のことですから、今は技術が進歩していて、他の用途に使われていても、不思議では、ありません」
「それって、もともとロシアの技術だったの??」
「当時は、そうです。
……と、いうより、記憶の電脳化は、西側では禁じられました。
ナカモト様は、他陣営の技術を頼るしか、なかったのです」

●フランシスも会話に加わる。

「マリアも、何らかの理由があって、その技術を使ったのね」
「揺り籠に、マリアの記憶が収まっているのは、間違いありません。
たぶんメデューサは、普段は、殆ど、揺り籠の中で暮らしていたはずです。
過去が分離したのなら、その影響も大きいはず。毎日の記憶の整合性を取る為にも、定期的に、パリティチェックのような連携作業が必要です」

●AIのKIDの説明に、納得したフランシス。

「なるほどね……メデューサに、過去が無いのも、納得だわ」
「過去が無い??」
「彼女、過去を取り戻す為に、ジムくんと戦ってた訳でしょう?
でも、それは、実は、マリアの過去だった。
つまり、彼女自身には、何も過去が無い……」
「メデューサ自身の、一番古い記憶は??」
「本人いわく、ロシアの軍隊というか、特殊部隊みたいな『群れ』に保護されたところからしか、記憶が無いそうよ」
「じゃあ、彼女は、そこで生まれた??」
「そう考えるほうが、自然ね。だから、彼女は過去が欲しいの」
「どこまでも、過去が付いて回る……」
「それに、彼女は、ほら……見た目で男性を惹きつけるでしょう??
それなのに、まるで無防備な子供のようだったから……」
「……ぁ……」
「可哀そうに、何度も利用された。
中には、優しくしてくれる男(ひと)も居たけれど。
……でも、その男も、彼女を守り切っては、くれなかった」
「そりゃあ、男を恨みますよね……」
「逃げ込める過去を持たないから、とんでもなく打ちのめされた。それで、感情表現することも苦手になった。私は、彼女を、そんなふうに見てる」
「そんなメデューサに、俺らは、どうしたらいいんでしょう?」
「分からないわ……ただ、誠心誠意、向き合ってあげるくらいしか……」

●そこに、メアリーが飛び込んでくる。

「ジム!お姉ちゃん!……大変!!メデューサさんが居ない!!」
「えっ!?」
「全然部屋から出てこなくって……見てみたら、部屋に居ないの!」

■大自然の中、メデューサを探す、メアリーとフランシス

●手分けしてメデューサを探すメアリーとフランシス

「メデューサ!!……メデューサ!!」
「メデューサさ~ん、どこ~!?」

■グリフォンのコクピット、メデューサの反応を探すジム

●こちらに近づいてくる生命反応を検知。AIのKIDが知らせる。

「こちらに近づいてくる生命反応があります。恐らく、彼女です」
「ホッ……帰ってきてくれたか」

●メアリーとフランシスに、スピーカーで呼びかけるジム

「二人とも!!……メデューサを見つけた!!
こっちに向かってる!!安心していいよ!!」

●メアリーとフランシスに、笑顔が戻る。

--場面転換。

■コンテナ内の食堂

●メデューサを含めて、全員が集まっている。
●乱暴に髪を切った姿を見て、フランシスが口火を切る。

「メデューサ、その髪型は、どうしたの??
それに、あなた、いったい、今まで何処に行っていたの!?」
「髪は自分で切った。昨日までの自分は死んだ。
これから、この『群れ』で暮らす印だ。
それと……これを狩るのに手間取っていた」

●テーブルに、鹿か何かの肉塊を置くメデューサ。メアリーが悲鳴をあげる

「ひっ!」
「新しい群れに入るのに、捧げ物が必要だ。普段は自分自身が捧げ物だが。
コイツが、頑として受け取らないのでな」
「……」

●そういって、少し睨むようにジムを見るメデューサ。頭をかくジム。
●メデューサの言葉の意味を感じ取って、顔を赤くするメアリー。
●メデューサが、フランシスのことを見ながら、言葉を紡ぐ。

「自分は、勘違いをしていたようだ。普通は、『群れ』の長は男だが。
この『群れ』の長は、フランシス・レイクウッド、お前のようだな」
「えっ、わ、私……」
「冷静に考えれば、年かさの女が『群れ』を率いるのは、妥当なことだ」
「と、年かさ……」

●メデューサの言葉に、すっかりダメージを受けるフランシス
●それに気づかず、ジムを心配して声をかけるメデューサ

「ジム・ビリントン、お前は肉を食ったほうがいい。
顔を見るたびに、やつれていくようだ」

●肉塊を指さすメデューサ

「誰か、これを裁けないか??……わかった。自分がやる」

●その場で、ナイフで肉を裁いていくメデューサ。
●その作業に引いた様子の、メアリーとフランシス
●ボソッと、メデューサが呟く。

「お前たちという女は、強いのか弱いのか、よく分からんな」

--場面転換。

■焚火を囲んで、外で皆で食事をするシーン

●骨付き肉に、直にかぶりつくメデューサ。それを諫めるメアリー。

「ちょっと、メデューサ!それは、いくらなんでも、お行儀悪すぎ!」
「うるさい女だな。そういう態度では、男とは打ち解けんぞ」
「あたしは、レディーだから、打ち解けなくていいの!
……ああ、もう。せめて、ちゃんとナイフとフォークは使って!
……ほら、ナイフは、こっち。フォークは突き刺さない」
「食事なんか、ただの栄養補給では、ないのか?」
「この『群れ』では、そうじゃないの!!」
「面倒くさいルールだ」

●メデューサとメアリーの様子を、微笑ましく見守るジムとフランシス。

「ウフフッ……メアリーったら、まるで、メデューサのお姉さんね」
「お姉ちゃんに、なりたかったのかも、しれませんね!」
「あ、そっか。妹キャラは、もう卒業したいんだ」
「みんな、成長しているんですね」
「ジムくんも、どんどん成長しているわよ」
「えっ……そ、そうですか??」
「ええ……HAMLETで最初に出会った時は、もっと頼りなく感じたわ。
でも、今は、とても頼りがいがある。だからこそ、無理しすぎないでね」
「ありがとうございます」
「……ジムくんが、メデューサとマリアを気にする気持ち、よくわかるよ」
「えっ??」
「私なんかより、気になるのは、当然よね。
マリアとは、それだけの間柄なんだもの」
「そんな……フランシスさんが気にするような間柄じゃ、ないですよ」
「私に、そんなに気を使ってくれなくても、いいのよ」
「お、俺に、そんなつもりは……」(ジム、頭をかく)
「ウフフッ、困らせちゃって、ごめんなさい。
なんか最近、ジムくんが、遠くに行っちゃう気がして」
「俺は、フランシスさんと距離を取ってるつもりは、ないですよ……」
「あ……その言葉、覚えておこう」

●ジムを見つめるフランシスの顔が、なんだか艶っぽい。
●フランシスの飛びっ切りの笑顔で、この話は終了。

--暗転。

#021  過去の無い女、了。

AIに、「過去の無い女を描いて」と言ったら、こうなった。

※本作品について(再掲)
本作は、1993年にPC-98版ゲームソフトとして販売された『HAMLET』および移植版の『SPACE GRIFFON VF-9』の続編となるストーリーで、西暦2149年を舞台としたSF作品です。登場人物や組織などは、実在するものとは、一切関係がありません。前作は、wikiやプレイ動画等でご確認ください。
なお、筆者は当該タイトルの原作と脚本を担当した張本人ではありますが、現在は、いち個人で執筆しており、HAMLET2の権利は筆者に帰属します。
しかしながら筆者は、この作品の二次創作・三次創作を制限するものではありません。どなたか奇特な方がキャラ絵を描いてくれると嬉しいです。


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