HAMLET 2 #005 転機
■ナカモトの城、地下メディカルルーム
●メディカルベッドに寝かされているメアリーとフランシス。二人にヘッドギアがついている。
●AIの指示に従って、無言のまま体を動かすイメージをし、脳波を計測されている。
「石の階段を思い浮かべてください。では、一歩一歩、登ってみましょう」
「右手側に、木製の手すりがあります。掴みながら進んでください」
「はい、いいでしょう。少し休憩です。深呼吸してください」
息を吸って……イチ、ニ、サン……」
●二人の様子を見ながら、ドクターと話すナカモト
「ドクター。あなたの医学的・理学的治療は、まさに完璧です。
骨密度も標準以上、筋繊維の成長度合いも、全く申し分ない。
なのに彼女は歩けない」
「その理由は、脳にあると考えているのだがね」
「その読みは正しいでしょう。
私が機械の体に切り替えた時も、脳神経系の移行が大問題でした。
そこで、AIの助けを借ります」
「まさか、彼女に多律稼働関節を仕込むのか?まだ10代だぞ?」
「そんなことはしません。
フランシスの運動時のシナプス活動を、コンピュータに学習させ、メアリーの癖に合わせて変換。ヘッドギアで彼女の脳を刺激し、AIで矯正します。
定着までに、少し時間が掛かりますが……」
「結論を言ってくれ。私は医者だ、技師ではない」
「メアリーに合わせた、特注の歩行アシストスーツを作ります。
彼女のフォルムを崩さないよう、ごくごく薄い人工筋肉樹脂を使います。
それで、地道に脳を矯正するのです」
「なるほど。では彼女は、君のようなロボットには、ならないのだな」
「何度も説明しましたが、私はロボットでもアンドロイドでもなく、サイボーグです」
「……すまぬ。怒らせてしまったなら、謝る。申し訳ない」
「あなたは人間のドクターだ。機械人間に偏見があっても、仕方ない」
「これからは、機械人間の治療も、出来るようになりたいよ」
「ドクターにそう言って頂けただけで、お話しした価値がありました」
「地球の人間でも、月の人間でも、機械人間でも、大事な命だな」
「彼女たちの幸せを考えて動くのは、ドクターも私も、変わりませんね」
「それには同意する」
-場面転換。
■ケンブリッジ大学のパブ
●王様気取りのジャック、女たちを侍らせてご満悦。明らかに金回りが良くなっている。
「あら、ジャックぅ、なんか凄くリッチになったじゃない?
何があったの?」
「太客が俺に乗り換えただけさ。これで、末は大臣かな。アハハハッ」
「わぁ、頼もしい!……ねぇ、ワタシさ、新しい靴が欲しいんだけど」
「いいぜ~!そんなもん、いくらでも買ってやるよ!」
●女は、ジャックとねっとりしたキスをして、ウインクをして去っていく。
「しかし、ホント、ルナ・ティアーズさまさま、だな。
金持ちの親戚が振り向いてくれて、最高だ!
だが、金ばかりあっても、飽きちまう。何か、面白いことは……フフフッ」
●思案顔のジャック。何かを思いついて、ニヤリと笑う。
-場面転換。
■ナカモトの城、地下メンテナンスベース&武器庫
●AMFに吸収されたり潰された企業の技術者が集まり、自己紹介している。
「元ロッキードマーティンの、ジョゼフ・マクモニーグルです」
「元ラインメタルの、 エーリッヒ・デニケンです」
「元スカンクワークスの、ボブ・ラザーです」
「皆さん、どうぞ宜しく!」
●ロボットによる基本修復が済んだグリフォンが、メンテナンスデッキに乗せられている。
●ナカモトが全員に呼びかける。傍らにいるクラークたち。
「皆さんに頼みがある。この機体で、A-MAX FACTORIESに一矢報いる!
その気概で、強化と改造をお願いしたい。
ここにある武器は、何を使ってもいい。
必要なら、金は幾らでも出す。諸君らの奮闘に期待する!」
「オー!!」
●歓声が上がり、地響きがハンガールームに起きる。
「彼らが、私のドリームチームだ」
「すごいな。全部で何人いるかも、わからんぞ」
「ナカモトさん、あんた、どうやって、この人たちを集めた?」
「簡単だ。A-MAX FACTORIESを恨んでいる者は多い」
「それにしたって、金はずいぶん掛かるんじゃない??」
「あんたの資金源は、何処から出ているんだ??」
「徳川の埋蔵金さ」
「……」
●肩をすくめるクラークたち。
●技師たちが困惑した様子で話している。
「しかし、このプラズマ推進機は、どうする?リビルドできないぞ」
「A-MAX FACTORIESの純正品は、外販されていないよな?」
「たとえ手に入っても、NATO標準モデルは、この機体には収まらない」
「皆さん、お困りのようですね」
●一人の声に、全員がハンガーの入り口に注目する。大きな荷物を抱えた男がいる。
「こんなこともあろうかと、良いものを持ってきました。
TR-3Bの初号機に載っていた、墜落機オリジナルのプラズマ推進機です。
申し遅れました。私、ロンドン王立協会の、ゼカリア・シッチンです。
どうぞ宜しく」
-場面転換。
■ドクターの屋敷
●メアリー、早く歩けるようになろうと、杖をついて屋鋪内を移動している。動きはぎこちないが、痛みなどは少なそうだ。
●屋敷の扉がノックされる。メアリーの周りには、誰もいない。
●再び、屋敷の扉がノックされる。仕方なく、メアリーが玄関に向かう。
「はい……」
●小窓から外を覗くと、ジャックの姿が。
「あ、ジャックさん!」
●屋敷の扉を開くメアリー。
「やあ、メアリーさん。ジムは、ここに居るかい?」
「うぅん、今は居ないわ」
「そうか、残念だな。……中で待たせて貰ってもいいかな?」
「ええ、どうぞ!」
■メアリーの居室
●ほとんど荷物のない、メアリーに与えられた居室。
HAMLETから持ってきた家族写真が飾られている。
「今日は、他に誰も居ないの?」
「お姉ちゃんが居るはずだけど、たぶん調べものに集中してるんだと思う。他の人はね、なんだか、みんな忙しいの」
「へえ、君には、お姉さんが居るのか」
●下卑な笑みを浮かべるジャックだが、メアリーからは見えない。
「うん……あ、ジャックさん、何か飲みますか?」
「ああ、いいね!頼むよ」
「ちょっと待ってね」
●杖をついて、飲み物を取りに行こうとするメアリーに、背後から近づくジャック。
「月人って言っても、オンナはオンナだ。アレは変わらないんだろ??」
●メアリーの杖を蹴り飛ばし、転ばせるジャック。
「えっ……あぁっ!」
●ジャックがベルトを外し、ファスナーを下ろし、下着を脱ぐ。
叫ぶメアリー。
「さあ、始めようか。俺を楽しませてくれよ」
「きゃあぁぁぁっ!!……イヤあぁぁっ!!」
●別室のフランシス、異変に気付く。
●迫るジャック。メアリーの顔が、恐怖に歪む。
●ジャックがメアリーに襲い掛かる瞬間、窓ガラスを突き破り、怪物がジャックを襲う。
(……ガジャアアン!!)
「グオォォォ!!」
「……ウッ!!……グッ!!……ぐあぁぁっ」
●怪物、「チャラ男に気を付けろ」とばかりに、メアリーを一瞥。
●ジャックを肩に担いだ怪物、メアリーには何もせず、去っていく。
●フランシスが駆け付けた時は、すでに怪物がジャックを連れ去った後だった。
-フェードアウト
#005 転機、了。
■新規登場人物紹介
※今回のドリームチームのメンバー名は、全てネタです。
気になる人は、人名を検索してみください。
※本作品について(再掲)
本作は、1993年にPC-98版ゲームソフトとして販売された『HAMLET』および移植版の『SPACE GRIFFON VF-9』の続編となるストーリーで、西暦2149年を舞台としたSF作品です。登場人物や組織などは、実在するものとは、一切関係がありません。前作は、wikiやプレイ動画等でご確認ください。
なお、筆者は当該タイトルの原作と脚本を担当した張本人ではありますが、現在は、いち個人で執筆しており、HAMLET2の権利は筆者に帰属します。
しかしながら筆者は、この作品の二次創作・三次創作を制限するものではありません。どなたか奇特な方がキャラ絵を描いてくれると嬉しいです。