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HAMLET 2 #029 私が愛した人
■巨木の傍ら
●実体を伴ったメイビル博士が、フランシスに声を掛ける
「彼が気になるのかね??」
「博士!……メイビル博士!?」
●抱き合う、フランシスとメイビル博士
「よく、ここまで来たね。
ここでは、地球の力が強くなる。私も、仮の肉体を保って存在できる」
「幻覚ではないのね。本当に、貴方なのね……」
「この木が、奇跡を起こしてくれた。
こうして、また君と触れ合えるとは……」
「夢じゃないのね。これ、現実なのね……」
「夢でもいいじゃないか。私は、怪物になってしまった。
君とは、もう、この姿で会うことは無いと思っていた。
だから私は、これが夢でも嬉しい……」
「この姿の貴方は、とても懐かしい……」
●二人、見つめあって。
「フランシス君。
君は、HAMLETで私に『人の心を持っていて欲しかった』と言ってくれた。
この木は、君と私の心を読み取って、人間の姿を与えてくれたのだろう」
「この木は、人の心を読み取る??」
「ああ。この木も、木の実も、人の心を読み取る。
私も君たちも、この木の研究対象なのだよ」
「人の心を読み取って、何をしようと言うのです??」
「地球は、また人間に増えて欲しいと思っているのだろう」
「???」
「人間は、一旦増えすぎ、そして今度は、減りすぎた。No.369のせいでね」
「ゾンビになった者、核で焼かれた者、A-MAX FACTORIESに殺された者。
すでに、どれだけの人が亡くなったか、想像も出来ません……」
「君と私は、この事件の首謀者だ。No.369で地球人類に復讐しようとした。
研究対象として、うってつけなのだろう」
「………」
●悲しい顔をするメイビル博士。
●それに対し、覚悟が決まっているように見えるフランシス。
「君に、業を背負わせてしまって、すまない……」
「背負う覚悟は、ありました。貴方が気に病むことでは、ありません。
No.369が完成した時、私も貴方も、復讐が成されることを望みました。
HAMLETの人間を、月の人間を卑しいものと扱い、とことんまで搾取した。
そんな地球人に、復讐することができると喜んだ。
それは、私達だけでは、ありません」
「そうだ。しかし、それもA-MAX FACTORIESに仕組まれたものだった。
結局は、奴らが人類を選別する為の材料でしかなかった」
「私達は、A-MAX FACTORIESの掌の上で転がされているだけだった。
だから研究の完成を急いだ。A-MAX FACTORIESの裏をかこうと、必死に」
「結果的に、君も私も、地球に降り立つことになった」
「ええ。ジムくんが……彼らの優しさが、私達を、No.369を、地球に降ろしてしまった」
「君は、そのことで苦しんだ。
無差別というのは、大切な者の命すら奪うものだったからだ」
「………」
●優しく、フランシスの頬を撫でるメイビル博士
「私の、怪物としての肉体は失われた。しかし、意識と心だけは残った。
残って地球全体に拡散し、地球の動植物に取り込まれ、ありとあらゆる場所に偏在した」
「そして貴方は、死ねない存在になってしまったのですね……」
「そうだ。ずっと死ねずに、地獄の業火で焼かれる身だ。
それはいい。あと数十億年もすれば、地球が、膨張した太陽に飲み込まれて終わるだろう。
しかし、なにより、君が苦しむ姿を見るのは、辛かった……」
「すべて見ていらしたのね。
私のことを、見守ってくださったのですね」
「君は、私の心残りだ」
「心残り??」
「私は、君に普通の幸せを、与えてやれなかった……。
周りから見たら、君は、私に騙され、青春を奪われ、女性として、貴重な時間を失った。そんな、哀れな女性に見えることだろう。
心に傷を負い、いらぬ罪を背負い、今も幸せを掴めずにいる……」
●フランシスの毅然とした態度は、変わらない。
「周りから見たらどうかなんて、私と貴方には、関係ないことです」
「しかし……」
「私は、望んで貴方の元に行きました。
貴方に教わり、育てられ、稼ぎ、暮らせるようになりました。
貴方に時間も自分も捧げた。それを後悔したことなんて、一度もない……」
「ああ。実際、君は、私に実力以上のものを出させた。
研究の完成には、No.369の完成には、君は不可欠だった」
「私は、貴方に出会って、幸せになりました。
あの家を出て、自分の力で、生きることが出来るようになりました」
「しかし、今は、どうだね??
その過去が、君の幸せを遠ざけてしまっては、いまいか?」
「どういうことですか?」
●博士の言葉の意味を、計りかねるフランシス
「君は、素晴らしい女性だ。若くて魅力的な女性だ。
だからこそ、女性としての幸せを、掴むべきではないか??」
「……」
「人類は、減りすぎた。今回は、あまりにも減りすぎた。
若く、子を産める女性の価値は、いやまして高まっている。
そして、君を気にかけている若い男がいる。君たちは、次の世代を……」
●メイビル博士の言葉に被せるように、強く声を上げるフランシス。
「産む事だけが、女の幸せだなんて、思えません!」
「まだ、お父さんを恨んでいるのかね?
それとも、メアリーのお母さんを、かね?」
「……」
「確かに、二人は再婚を急ぎすぎたとは思う。
だが、その気持ちも分かる。
HAMLETでは、今の地球以上に、若い女性の価値は大きかった。
君や妹さんも含め、全ての女性の存在は、それはそれは、大きかった」
「だからって、男にぶら下がる女も、それを、とっかえひっかえする男も、感心しません……」
「そうか……君がジム君に踏み込めない理由が、分かった気がするよ。
君は彼に、同じように真っすぐに、向き合って欲しいのだね」
「私は、ハッキリしない男は、嫌いです……」
「男というものは、寂しい生き物なのだよ。決めきれない場合もある」
「でも貴方は、真っすぐ私に向き合ってくださいました……」
「それは……私には、君しか居なかったからだ」
「そんなこと、おっしゃらないでください……」
「私が、もっと若ければ、もし君と、つり合いが取れていたなら。
君に、普通の幸せを与えてあげられたかもしれない。
だが、私に、それは無理だった」
「貴方は、それでも私を、幸せにしてくださいました……」
「しかし、君は今も生きている。その意味を、問い直さなくては」
「生きる意味なんて、そんなもの……」
「考えてみたまえ、フランシス君。
この木が、君たちから何を学ぼうとしているのか?
この木が、いや、この世界が、地球が、君たちに何を望んでいるのかを。
何のために君たちを生かし、なぜ君たちに実を与え、命を繋ごうとしているのかを」
「私に、地球の為に、彼の子供を産めと、おっしゃるの!?」
「その先に、その未来に、君の幸せが、きっとある!」
「……」
「納得は、できんかね??」
●怒りと悲しみと情けなさに、フランシスは泣きながら博士を拒絶する。
「お願い……消えて……消えてください、博士……」
「……」
「これ以上、私の思い出を壊さないで。私の過去を壊さないで。
私の未来を、決めつけないで」
「フランシス君……」
「貴方の気持ちは分かりました。
それが地球の望むもの、なのかも知れません。
でも、これは私の人生です。自分で決めます。自分で選びます」
「そうだな。君は、昔から、そういう女性だった。
そういう君が、好きだったよ」
「さようなら、博士……もう二度と、会うことは、ありません」
「ああ、さようなら、フランシス君……」
●二人、泣きながら、そっと距離を取る。
●消えていく、メイビル博士の姿。
●そこに、メデューサの声が重なる。
「大丈夫か、フランシス……しっかりしろ、フランシス・レイクウッド!」
「……!!……」
●フランシス、現実に引き戻される。
●目の前に、心配したようすのメデューサがいる。
「あ……だ、大丈夫よ、メデューサ……」
「まるで、お前の周りだけ、時間が止まっているみたいだった。
本当に大丈夫か??」
「ええ」
「泣いている、のか??」
「違うわ。目にゴミが入っただけ……」
「そうか」
●フランシスの話に合わせるメデューサ。
「みな、そろそろ帰るらしい。何か、持って帰るものは、あるか?」
「いいえ。持って帰っても、研究する機材も無いわ。無意味よ」
「了解した」
■発進前。アサルトモードのグリフォン
●機体の腕に掴まるフランシス(右腕)とメデューサ(左腕)
●マイクで皆に声をかけるジム
「みんな、グリフォンを動かすよ!……気を付けて!」
●ベースへと戻るグリフォンを、巨木の傍らに立って見送るメイビル博士
■去り際、ジムに語り掛ける、メイビル博士の声
●巨木からの去り際、ジムにメイビル博士が語り掛ける
「ジム君、フランシス君のこと、宜しく頼む……。
彼女を、幸せにしてやってくれ……」
「!?……」
●ジム、びっくりして振り返るが、当然、そこにメイビル博士は居ない。
--時間経過の為のフェードアウト・フェードイン等--
■ジム達のベースとなっているコンテナ
●その近くに、新たにCNと書かれたコンテナが、複数置かれている。
●グリフォンを降りたジムが、そのコンテナを怪しむ
「これは……俺たちが出かけている間に、何が起きた??」
●新しいコンテナから、ひょっこりと顔を出す中国製のアンドロイド
「やあ、お帰りなさい、みなさん!!
私の名前は、霓宙(うんげい)。
これから、皆さんのお世話をさせていただきます。
……どうぞ、宜しく!!」
-ジムに向かって手を差し出し、握手しようとするアンドロイドの霓宙。
#029 私が愛した人、了。
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※本作品について(再掲)
本作は、1993年にPC-98版ゲームソフトとして販売された『HAMLET』および移植版の『SPACE GRIFFON VF-9』の続編となるストーリーで、西暦2149年を舞台としたSF作品です。登場人物や組織などは、実在するものとは、一切関係がありません。前作は、wikiやプレイ動画等でご確認ください。
なお、筆者は当該タイトルの原作と脚本を担当した張本人ではありますが、現在は、いち個人で執筆しており、HAMLET2の権利は筆者に帰属します。
しかしながら筆者は、この作品の二次創作・三次創作を制限するものではありません。どなたか奇特な方がキャラ絵を描いてくれると嬉しいです。