HAMLET 2 #004 殿下
■リズの館
●ラウツェンと同じくらいの大男が、ピンと背筋の伸びた男性と懇談している。
「殿下、ここで身を潜めていらしたのですね。
この日を待ちわびて、幾星霜……」
「そう呼ばれるのは、わたくしは好みません」
「しかし、貴方様に流れる血は……」
「あなたは、何か勘違いをされているようだ」
「お認めには、ならないのですか?」
「わたくしが認めなくても、あなたは、そうだと言い張るのでしょう?」
「それは……確証がありますゆえ、私は、最後の日本人として、お慕い申しております」
「日本人は、もはや一人も居ない。すでに日本国も無い。
それが国際社会の認識です」
「ですが、貴方様は!」
●大男は、テーブルを叩いて立ち上がる。
「狼藉を働くようであれば、話はここまでです」
「も、申し訳ございません……」
●すごすごと、大男は座る。
「私はただ、日本国を再興したい。
その為だけに財を成し、機械仕掛けの体となって、時を待ちました。
すでに万端整っております。あとは、精神的拠り所となる象徴のみ」
「象徴と祭り上げられる側に、想いを寄せたことは、ありますか?」
「……」
「祖父も父も、苦悩しておりました。苦悶しておりました。
特に、あの未曽有の災厄の後は」
「察するに余りあります」
「子供心に、その重責を感じました。
米国は、在日米軍の被害拡大を恐れ、早々に撤収を命じた。大使も帰った。
内閣も、与党も野党も、統治機構も、ほぼ全ての民間組織も、国土同様、軒並み灰燼に帰した」
「多くの国民が、そのまま見殺しにされました。
少子高齢化で国力が弱っていた時に、あの災厄。そして無情な仕打ち。
二次災害を恐れた国際社会は、何処も駆け付けず、助けてくれなかった。
災厄の連続が、容赦なく日本人を襲いました。……何度も、何度も」
「あの時、海外に静養に出ていて、祖父も父も、わたくしも、生き延びた。
いや、生き延びてしまった……」
「私も、すでに海外で生計を立てており、死にそびれました」
「そんな、わたくしたちに、日本国の再興が許されるはずが、ありません」
「ですが、金もあります!無人部隊ですが、軍も組織できます!
諸島部を買ってでも!なんなら、スコットランドを焚きつけて、そのまま領土にしてしまえば!」
「そのやり方の、何処がA-MAX FACTORIESと違うというのですか!?」
「!!……」
「あなたは、A-MAX FACTORIESが憎くないのですか!?
日本国の全てを奪い、国土を不沈空母にし、今も、世界の支配を目論んでいる。そんなA-MAX FACTORIESが、憎くないのですか!?」
「憎いです!憎くない訳がありません!」」
「それなのに、わたくしにA-MAX FACTORIESと同じ罪を、背負えと言うのですか!?」
「そ、それは……」
「あなたには、祖父の気持ちが分からないのですか?
そして、なぜ父が、日本国の解散を宣言したのか?
なぜ、生き残った全ての国民に、日本の国籍を捨てさせ、日本人としての名を捨てさせ、みな、他の国に渡って、その土くれとなる生き方をしろ、と!
そう説いた意味が、その時の気持ちが、あなたには、分からないのですか?!」
「しかし、その結果として、日本国は地図から消えました。日本人は、消えてしまいました……」
「けれども日本文化は残った。日本人の精神は残った。
言葉は悪いが、その後も、世界を侵食していった。
生き延びた国民は、世界中に散らばり、多くの若者が月にまで亘って、月面基地の礎すら、築いたのですよ」
「それは存じております。日本人だからこその、見事な精神力です」
「ならばこそ、世界に広まった日本人の精神を尊び、地面などという、国などというものに、もはや、こだわるべきではない。そう思いませんか?」
「おっしゃることは分かります。ですが!……」
「予定の時間は過ぎました。
今のわたくしには、執事としての仕事がありますので、これで」
「殿下!」
「わたくしの名は、セバスチャン。あなたの思う人物では、ありません」
「クッ……」
「ナカモトさん、あなたと話すのは楽しかった。久しぶりに、祖父や父を思い出しました。……ありがとうございます」(うやうやしく礼をする)
「き、恐縮至極にございます」(同じく、礼をする)
■リズのプライベートルーム
●リズとナカモトの茶会
「そうですか……お気持ちは、晴れまして?」
「未練は、あります。ですが、無理強いは、できますまい」
●居住まいを正すナカモト。
「この度は、あの方と話す機会を与えて頂き、衷心より感謝申し上げます。大変に、ありがとうございました……」
「我が家と日本の繋がりを考えたら、無碍には出来ませんもの。
それに、わたしのほうからも、ナカモト様にお願いがございますの」
「ハッ、私にできることでしたら、なんなりと」
「孫たちを、助けてくださらない?貴方様のお力を借りたいの」
●緊張した面持ちのナカモト。
■ナカモトの城、地下メンテナンスベース&武器庫
●運び込まれていたグリフォン。外装が外され、ロボットアームが修理を進める。それをクラークら男性陣が取り囲む。
「これは凄いな。まるで軍事施設じゃないか」
「男の夢とロマンが、詰まっているねぇ」
●ナカモトが入ってくる。
「気に入って頂けましたか?」
「気に入るも何も……あんた、政府転覆でも狙っていたのか?」
「フフッ……政府転覆か。それも面白いな」
●ベースに入ってくる、メアリーとフランシス。メアリーの車椅子を押しているフランシス。
「!!……ラウツェンさん??」
●ナカモトの巨大な機械の体躯が、HAMLETでのラウツェンの姿と重なる。
●振り向いたナカモトの顔を見て、人違いに気づくメアリー。
「君がフランシス、そして、メアリーだね?」
「おじさま、ごきげんよう。人違いをして、ごめんなさい」
「私みたいな、大男の知り合いが居たのかい?」
「うんっ!ラウツェンさんっていうの。
とっても優しくて、すっごくいい人!」
「ハハハ。わたしも、そういう人間に、ならないとな」
「この度は、お世話になります」
●フランシス、深々と頭を下げる。
「そうお気になさらず。
HAMLETの出身となれば、私は支援を惜しまない」
「思い入れが、ございますの?」
「多くの英霊が眠る場所です。できることなら、自分で訪れたかった」
「それも、もう叶いません。私たちも、帰る場所を失いました」
「ジム君から聞きました。お辛い経験をされましたね。
……でも、もう安心してください。
メアリー、君も歩けるようになるよ」
「本当!?おじさま、それ本当!?」
「わたしに、いい考えがあります。
すぐに治療を始めましょう。ここは男性たちに任せて、どうぞ、こちらへ」
●ナカモト、メアリーとフランシス、メンテナンスベースを出ていく。
-フェードアウト
#004 殿下、了。
■新規登場人物紹介
●殿下=セバスチャン(既出)
普段は、リズの執事をしている。とても由緒ある家の出らしい。
●サトシ・ナカモト
機械の体を持つ、自称、最後の日本人。大金を持ち、影の実力者らしい。
※本作品について(再掲)
本作は、1993年にPC-98版ゲームソフトとして販売された『HAMLET』および移植版の『SPACE GRIFFON VF-9』の続編となるストーリーで、西暦2149年を舞台としたSF作品です。登場人物や組織などは、実在するものとは、一切関係がありません。前作は、wikiやプレイ動画等でご確認ください。
なお、筆者は当該タイトルの原作と脚本を担当した張本人ではありますが、現在は、いち個人で執筆しており、HAMLET2の権利は筆者に帰属します。
しかしながら筆者は、この作品の二次創作・三次創作を制限するものではありません。どなたか奇特な方がキャラ絵を描いてくれると嬉しいです。