HAMLET 2 #020 新しい「群れ」
■メデューサに与えられた部屋
●元はジムの部屋だった場所がメデューサに与えられている
●その部屋の隅に、体育座りの形で、じっとしているメデューサ
●そこに、食事を持ってくるメアリー
「メデューサさん、食事持ってきたよ」
「要らぬ」
「一口くらい食べてよ。
せっかく、あたしとお姉ちゃんで頑張って作ったんだから」
「自分は、客ではない。施しは受けない」
「施し、って……食べないと死んじゃうよ」
「別に、構わない」
「あなたが構わなくても、こっちが困るの!
……ここに置いておくね」
●食事のトレーを、一瞥だけするメデューサ
■揺り籠が生み出した幻影の中、マリアを探すジム
●マリアの姿は、まだ見えない。
「マリアさん!!……マリアさん!!」
●呼びかけに応じて、マリアの姿が現れる
「マリアさん!」
「KID……あんたのほうから来てくれるなんて、思わなかったよ」
「この機械に入れば、また会えるんじゃないか、って。
だから、自分から来ました。
あの……この前は、子供っぽい真似して、ごめんなさい」
「あ……いいんだよ、気にしないで。
デリカシーが無かったのは、あたしのほうだから」
「あの後、ずっと死んだように眠り続けちゃって……それで、ずっとマリアさんと、もう二度と会えなかったらって、自分の態度を後悔してたんです」
「そうやって、正直に言ってくれると、嬉しいよ。
……そっか、あたしと繋がるのは、そんなに疲れるんだね」
「うん。メデューサが攻めて来たのにも、気づかなかったんだ」
「攻めて来た??……あの子が??」
「俺が倒れている間にね。
メアリーとフランシスさんが、応戦してくれたんだ」
「そう。あの子、あたしと繋がらずに、こいつを動かしたんだね。
だから、あたしにも、その時の記憶が無いんだ……」
「マリアさんは、メデューサとも繋がっているの??」
「ええ、いつもはね。……それが決まりだった。
そうすれば、あの子の様子も、あたしが知れるから」
「じゃあ、マリアさんは、メデューサが何者か、知ってるんだ」
「ええ……KIDが想像している通りよ」
「じゃあ、メデューサは、マリアさんの……」
「……抜け殻よ。記憶を失った、あたしのカラダ」
「やっぱり……じゃあ、メデューサが取り戻そうとした過去は??」
「あたしのもので、あの子のものじゃ、無いわ」
「それを、メデューサは知らないの??」
「知らない。知らされてもいない。
あの子は……他の男たちの、人形だったから」
「そ、それって……」
「KIDは、知らないほうがいいよ」
「……」
「今、あの子は、どうしているの??」
「俺が使っていた部屋に、ずっと籠っています。
食事も、しないんです……」
「そう。あの子らしいね」
「彼女のこと、どうしたら、いいんでしょう??」
「……分からない。
こっちに戻ってきても、もう、あたしと繋がる気は、ないだろうし」
「彼女のしたいように、させるしか、無いのかな?」
「KID、今日はもう、帰りな。凄く疲れた顔してる。
今も、あたしと居ただけで、少し、やつれたみたい」
「うん……なんか、この前より、すごく疲れた気がします」
「じゃあね、KID……来てくれて嬉しかった。。
今度は、もっと元気な姿を見せて!」
「うん。約束するよ、マリアさん……」
--場面転換。
■メデューサに与えられた部屋
●相変わらず、部屋の隅で体育座りの形で、じっとしているメデューサ
●そこに、食事を持ってくるフランシス。
「今度は、私が持ってきたわ」
「フランシス・レイクウッドか」
「あら、嬉しい。名前を覚えてくれたのね」
「自分を、初めて、言葉で言い負かせた女だからな」
「そんな大層なことをしたつもりは無いわ。
確かに、あの時は、殴りかかろうかと思ったけど」
「殴りたいなら、殴ればいい」
「私に、そういう趣味は、無いわ」
「では、何をしに来た??」
「一緒に食事がしたいだけよ。
……そうね。食べながら、男の話でもしない??」
「……男か」
「いろいろと、男には言いたいことが、ありそうじゃない??
聞かせてくれないかしら、私に」
「長い話になるぞ」
「じゃあ、お互いに、食べながら話しましょう!」
●食事のトレーを、しぶしぶ手に取るメデューサ。
「ウフフ……素直で宜しい!」
「嫌味な女だな」
「さあ、一口食べてから、おしゃべりしましょ!」
●食事を、一気に流し込む勢いのメデューサ。
●そんな様子を、満足げに見るフランシス。
※時間経過を表す、フェードアウト・フェードイン。
--場面転換。
■ジムの夢の中
●マリアの手ほどきを受ける、ジムの妄想
「ねぇ、ジム……妄想と本物と、どっちがイイか、教えてあげる……」
「ア……まっ……て、マリアさ……んっ……」
「うん。こんなふうに、元気なジムと、会いたかったの……」
「ぅ……んっ……ん……」
「フフッ……あたしで、こんなになっちゃうなんて、ジムって、可愛い♪」
「えっ、ちょっ……ウ……ぁ……」
■グリフォンのコクピット内
●突然、目を覚ますジム
「わぁっ!!」
「目を覚ましてしまったか、ジム・ビリントン」
「メ、メデューサ……今、キミ、いったい何を……」
●手の甲で、自分の口元をぬぐうメデューサ
「……案ずるな。未遂で、未達だ」
「な、な、なんで、こんな……」
「フランシスに聞いた。自分の為に、部屋を明け渡してくれたそうだな。
……これは、その礼だ」
「礼って……だからって、こんなこと……」
「お前は、嬉しくないのか??」
「嬉しいとか、嬉しくないとか、そんなんじゃなくって!」
「そうか……経験上、男は、これをされると喜ぶものなのだが。
自分は、こんな形でしか、男の役に立てない。
お前の期待に沿えないなら、謝る」
「そんな期待は……最初から、してないよ」
「では、自分は、一宿一飯の恩義に、どう報いればいい??」
「そ、それは……そうだね……ねぇ、メデューサ。
俺たちの仲間になってくれないか??」
「仲間??」
「ああ。俺とメアリーとフランシスさんは、一緒に暮らしている。
そこに、君も加わってほしい」
「仲間という言葉は、嫌いだ。
その言葉には、期待だけさせて、結局は裏切られる」
「じゃあ、別に、なんと言ってもいい。
ただ、君にも、俺たちと一緒に居てほしい」
「ここは、お前の『群れ』なのだな」
「群れ??……まあ、そうとも言えるね」
「わかった。『群れ』なら、嫌になれば、出て行けば、それでいい。
お前の気が変われば、追い出せばいい」
「そうか……なら、決まりだね」
「明日、皆に挨拶をする。
今夜は、お前の部屋を使わせてもらおう」
「ああ、わかった。それでいいよ!」
--場面転換。
■メデューサに与えられた部屋
●ジムと別れ、部屋に戻ってくるメデューサ。
●また、体育座りで、自分の長い髪を弄り始める。
※以下、メデューサのモノローグ
男……仲間……群れ……自分は、からっぽの女。
こんな場所で、自分に、何ができる。
自分は、生きていても、いいのか??
生きる意味があるのか??……こんな自分に……。
●パイロットスーツ備え付けの、ナイフを取り出すメデューサ。
●外からの光で、メデューサの顔が、ナイフの刃に映りこむ。
※メデューサのモノローグ、続く。
フランシス・レイクウッドは、惨めな女だと認め、それでも生きている。
では、自分は、そんなふうに生きられるだろうか??
あの女のほうが、自分より、強いのではないか。
弱い女に、生きる価値は無い。前の群れで教わった。自分のルールだ。
それに従えば、今の自分に、生きる価値は、無い……。
●メデューサの持つナイフ、妖しく光る。
●部屋の中に響く、ザクッという音。
--暗転。
#020 新しい「群れ」、了。
※本作品について(再掲)
本作は、1993年にPC-98版ゲームソフトとして販売された『HAMLET』および移植版の『SPACE GRIFFON VF-9』の続編となるストーリーで、西暦2149年を舞台としたSF作品です。登場人物や組織などは、実在するものとは、一切関係がありません。前作は、wikiやプレイ動画等でご確認ください。
なお、筆者は当該タイトルの原作と脚本を担当した張本人ではありますが、現在は、いち個人で執筆しており、HAMLET2の権利は筆者に帰属します。
しかしながら筆者は、この作品の二次創作・三次創作を制限するものではありません。どなたか奇特な方がキャラ絵を描いてくれると嬉しいです。