HAMLET 2 #006 絶望
■旧英国空軍 ウッドブリッジ基地跡
●廃墟となった一室の壁に、鎖で繋がれているジム
「……ん?ここは……?」
●ジム、手足が繋がれていて、囚われている状況に気づく。
-場面転換。
■クラークたちのたまり場
●パンデミック条約の発効を伝えるニュースを見て怪しむクラークたち。
『本日未明、WHOと国連安全保障理事会は、パンデミック条約の発効を宣言しました。
これにより、全ての国連加盟国は、国権の一部をWHOに移管し、国民の生命と財産を守るべく、徹底した隔離政策が取られます。
現在、WHO指定の各地域の国民は、厳格に移動を制限され、すでに英国を含むEU各国では、国外への移動が著しく制限されています』
●ニュース速報は、まだ続いている。
「パンデミック条約!?……いきなりだな、おい」
「いったい、何処で感染症が流行っているというんだ??
ワシら年寄りは、ピンピンしているというのに」
「あまりにも、唐突だな」
「な~んか、きな臭いね」
●クラークが、ジムのことを気にする。
「しかし、これでジムを探すのが楽になるぞ。
彼は、恐らく国外には出ていない。なんせ、出国できないのだからな」
「クラーク、自信満々に言うのはいいけど、僕は、これに関しちゃ、お前の意見は聞けないね」
「おい、リチャード。今、それをここで言うのか?」
「いいか、前回ジムが行方不明になったのは、お前がエスプリに、どっかんターボを付けたせいだぞ!」
「な……んだと」
「お前の改造のせいで、彼は死亡事故を起こした。
ガソリン車全廃の、この世の中で、だ」
「ジェームズ、本当なのか?
彼は、私の改造のせいで死亡事故を起こし、行方をくらませたのか?」
「フルマニュアルのガソリン車に乗れば、電気自動車とは勝手が違う。
いくら親父さんでも、さすがに死亡事故は庇えなかったんだろうな」
「なんてことだ。
私は……ああ、そんなことも知らずに、リズとも関わっていたというのか」
「今度ジムに会ったら、せめて、その時の事だけでも謝罪するんだね。
僕はもう、リズがあんなに悲しむ様子は、見たくない」
「なんてことだ……なんてことだ」
-場面転換。
■製薬企業のビル
●受付で案内を受けるフランシス
「ナカモト様から伺っております。どうぞご自由にお使いください」
「ほんと地球って、何から何まで、お金で解決できるのね」(呆れ)
■製薬企業内のラボ。
●実験着姿で、No.369の抗体の作成に取り掛かるフランシス
「基本的には、私がHAMLETで作った抗体が使えるはず。
怪物にも、細菌にも、効くはずだけど」
■ナカモトの城、メディカルルーム
●ナカモトから装具を受け取り、身に着けるメアリー。
●下半身を覆う人工筋肉。身に着けると肌にフィットし、パイロットスーツのようになる。
「付け心地は、どうだね」
「ちょっとピチピチな気もするけど……大丈夫、ちゃんと動けそうよ」
「君の動きに合わせて、自在に伸縮する。丈夫だから、破れることもない」
「これで、自由に歩けるの?」
「ああ。もう、杖をつく必要もないんだ」
「これで、今度は、ジムと歩いてお出かけができるのね!」
「そうだよ、メアリー。君も、今日まで、よく頑張ったね」
「やった!……嬉しいっ!ありがとう、おじさま!」
「フフ……さあ、早速歩いてみようか」
「うんっ!」
●ナカモトに手を引かれ、歩きだすメアリー。ジムを気にする。
「でも……ジムは、いったい何処に行っちゃったのかしら??」
-場面転換。
■旧英国空軍 ウッドブリッジ基地跡
●廃墟となった一室の壁に、鎖で繋がれているジム。数人の男に暴行され、気を失う。
「チッ……気を失ったか」
「少し、やりすぎたかもしれんな」
-場面転換。
■企業内のラボ。
●疲労困ぱいのフランシス、実験用グローブを脱ぎ捨て、マスクを外し、その場にへたり込む。
「精度も分量も何度も試した。間違いない。様々なパターンも試した。
これで反応が起きないなんて、ありえない。
……まさか、1Gの環境下では、どうやっても無理ってこと!?」
●絶望で顔を覆うフランシス。
「手詰まりだ……もう、何をしても、到底、間に合わない。どれだけ金があっても、どれだけ武器があっても、そんなものは、役に立たない」
●大粒の涙が、フランシスの頬を伝う。
「人類は絶滅する。
私のせいで、人類は絶滅する……あんな研究のせいで……」
-場面転換。
■ケンブリッジ大学のパブ
●王様気取りのジャック、女たちを侍らせてご満悦。明らかに金回りが良くなっている。
●先日の女が、ジャックを見つけて、目ざとく近づいていく。
「ジャック、久しぶりね。ワタシへのプレゼント、手に入った?」
「ああ、確か、ブランドものの靴だったよな。……ほれ!」
●女の足元に、もぎ取られた、上質な靴を履いたままの女の足が転がる。
「ひいぃぃっ!!」
「あ~、やっぱ中古じゃイヤか。でも、お前みたいに頭がカラッポの女には、中古でも、もったいないくらいさ。
……どうせ、俺に喰われてオシマイなんだからよォ!」
●ゾンビ化するジャック
「野郎ども、今夜はパーティだ!派手にやろうぜ!!」
●カウンターや物陰に隠れていたゾンビが現れ、一斉に人を襲っていく。
●ケンブリッジ大学で、ゾンビの無双が始まる。
-場面転換。
■旧英国空軍 ウッドブリッジ基地跡
●廃墟となった一室の壁に、鎖で繋がれているジム。身じろぎもしない。
●その場に入ってくる、スーツ姿のジム父。手下が差し出す椅子に座り、足を組む。手下に命じる。
「起こせ!」
「ハッ」
●バケツの水を浴びて、意識を取り戻すジム。父がいるのに気づく。
「親として、せめて死に際を見に来てやったよ。
私に、子供をあやす暇はないのだがね」
「あ……あんたにだけは、会いたくなかった……」
「馬鹿なものだ。この私から、逃げ切れるなどと」
「俺は、あんたの道具じゃない……」
「親にとって、子供など、道具。
お前は、私の敷いたレールの上を、黙って進んでいれば良かったのだ」
「そんなのは、ゴメンだ……」
「まぁいい。私は、すでに従順な若者に乗り換えた。
手のかかる子供など、最初(ハナ)から、取り替えてしまえば良かったのだ」
「そうか……ジャックか」
「貴族たるもの、身分に相応しい振る舞いをせねばならぬ。
なぜ、お前には、それが出来ぬ!」
「貴族なんかに、なりたいわけじゃない!
俺はただ、祖母ちゃんみたいに、良い人間で居たいだけだ」
「フン、あの女のような口の利き方をする……成るか成らぬかではない。
常に、そうであるべき、なのだ」
「母さんを愚弄するな!……養子のくせに!」
「!!……相変わらず、身の程を知らぬ奴だ!」
●ジムの言葉に激高し、スラックスからベルトを引き抜くジム父。
●ジム父、ベルトを鞭のようにして、ジムを叩く、叩く。
●悲鳴をあげるジム。
●抵抗する元気もなくなる、ジム。勝ち誇るジム父。
「お前は、ここで死ねばいい。
……そうだ、言い忘れていた。
お前のその、母親とか言う女な、死んだよ」
「……!!……」
「お前が消えたあと、夢遊病者のようになってな。
目ざわりだと、ずっと思っていたが……フッ、哀れな最期だった」(嘲り)
●手下が、ジム父に声をかける。
「失礼します。緊急で、臨時議会が招集されました」
「すぐ行く」
●ジムに唾を吐きつけ、去っていく父。
「うっ……」
「近代国家で、飲まず食わずに死ぬのは、どんな気持ちか。
お前は、すぐに知るさ」
●ジムは、独りそのまま残される。ジムの嗚咽が響く。
-暗転。
※英国全土に鳴り響く非常警報。
#006 絶望、了。
■新規登場人物紹介
●ジムの父
英国保守党議員。元外交官として活躍。冷酷無比。
※本作品について(再掲)
本作は、1993年にPC-98版ゲームソフトとして販売された『HAMLET』および移植版の『SPACE GRIFFON VF-9』の続編となるストーリーで、西暦2149年を舞台としたSF作品です。登場人物や組織などは、実在するものとは、一切関係がありません。前作は、wikiやプレイ動画等でご確認ください。
なお、筆者は当該タイトルの原作と脚本を担当した張本人ではありますが、現在は、いち個人で執筆しており、HAMLET2の権利は筆者に帰属します。
しかしながら筆者は、この作品の二次創作・三次創作を制限するものではありません。どなたか奇特な方がキャラ絵を描いてくれると嬉しいです。