映画『上飯田の話』 監督インタビュー⑤ −映画作品の自主制作について−
4月15日に公開される横浜市泉区の小さな町を舞台にした全く新しいタウンムービー『上飯田の話』。本記事シリーズはその魅力をより深く知ってもらうために監督にインタビューを行いました。
監督インタビュー① −作品の着想について−
監督インタビュー② −町民の方々との撮影について−
監督インタビュー③ −俳優とのコミュニケーションについて−
監督インタビュー④ −劇中内の音楽について−
聞き手:本田ガブリシャス克敏
―――会社員として働いていた頃にも、自主映画を制作していたとのことですが、そのノウハウというものは大学時代に学んだことでしょうか。
業界や映画制作のことを知らない人からすると、俳優との交渉や、ロケ地の選定など全くの未知なのですが、今までに大変なことなどはありましたか。またそれらのノウハウは本作でどのように活かされたでしょうか?
正直いいますと、大学時代に何かノウハウを得たということは実感としてはあまりありません。どちらかというと「映画はどんな作り方でもいいんだ」ということを授業でも伝えられました。その延長で作っていたので会社員時代の自主制作映画は普通の映画とは全く違ったものでした。逆に会社員のとき、僕はイベント制作会社で働いていたのですが、そのときに知ったイベントの作り方や、社会人としての礼儀のようなものを映画作りに取り入れていったということが大きいように思います。それはその大学のやり方が間違っていたということではなく、僕は単純にある「型」を知った上でそれを活かすか変えるか、やりやすいようにアレンジしていく方が合っていたのだと思います。なのでイベント制作という一つの型を知れたことはとても役立ちました。
会社員時代に作っていた自主制作映画は良くいえば我流で、正しくいえばいいかげんなプロセスで作られていました。なのでとても恥ずかしい話ばかりがあるのですが、例えば僕は「衣裳合わせ」ということを知らなかった。なんかみんな着てきてくれるんじゃね?とボンヤリ思っていた。なのでスタッフや俳優さんはいつまでも衣裳の話が出ないから「衣裳合わせいつしますか?」と聞いてきてくれて初めて「えっそういうのが必要なの?」と思って慌ててやる。しかも撮影ギリギリなので他の準備があって慌ててやるから、今度他の作業(各所への連絡とか許可どりとか)がおろそかになる…。もっと恥ずかしい話をすると、そういう「なんとかなるんじゃね?」という意識は社会人のときにもありました。だから当時の上司には相当な迷惑をかけました。仕事上の失敗を通じてこの意識は間違っていたのだと知れました。単純に言うとスタッフや俳優を不安な気持ちにさせていた。ではそれが今は治ったかというと、もちろんそうではないのですが、あのときよりかはまだマシなんじゃないかと、信じたいです。
俳優やロケ地との交渉は、確かにもしかしたら未知なように感じるかもしれません。が、僕もイベント制作の方法をトレースしているだけなので、映画業界の慣習のようなものは全く知りません。ですので、おそらくこれを読んでくださっている方のお仕事と大して差はないのかと思います。いってみれば出演の承諾や、ロケ地の許可を得ることは、条件を提示して納得してもらうということです。ただ単純にいえばそういうことなのですが、映画撮影のロケ地として貸していただくということは、それなりに迷惑をかけてしまうことでもあります。『上飯田の話』では善意でご出演いただいたり、場所を貸してくださる方も多くいましたので、そういうときの礼儀は社会人のときに知れた気がします。
ーー⑤に続く
監督インタビュー① −作品の着想について−
監督インタビュー② −町民の方々との撮影について−
監督インタビュー③ −俳優とのコミュニケーションについて−
横浜市泉区上飯田町を舞台にした
全く新しいタウンムービー
04月15日 ポレポレ東中野にてロードショー
本作は単なるショートストーリーが連なったオムニバス映画ではないかもしれない。いうなればショートストーリーによって連結された町の物語であり、主役は町そのものと言ってよいだろう。その不思議な感覚は特殊な撮影手法によってもたらされている。
今回が初の劇場公開作となる本監督は、劇中にも登場する「上飯田ショッピングセンター」の建物の佇まいから強い映画創作の着想を得た。現地に何度も足を運び、町民の人々と交流するなかで、物語を制作していった。
主要キャストはエビス大黒舎に所属する若手俳優たち。こちらも演技のレッスンに足を運び、それぞれの人物像と登場人物を丁寧にすり合わせていった。上飯田町に実際に生活する人々も出演してもらっており、俳優たちの演技のなかに、いきいきとした町民の会話が溶け込み、フィクションにいろどりが与えられた。
フレームの外の町の風景、生活、人々が、巧みにフレーム内に融合した、この時代にしか撮れないエスノグラフィックムービーが誕生した。
コメント
上飯田という場所は実在するが、『上飯田の話』はどこにも存在しない。それは誰かの私的な記憶の場所でありながら、誰もが知っているはずの風景である。映画と現実。ドキュメンタリーとフィクション。歴史と現在。あなたとわたし。バナナの木とソフトボール。あらゆるものを結びつけながら分割する「と」という接続詞をヒョイと飛び越え無効にしてしまうたかはしそうたの大胆不敵さを御覧あれ。これもまた映画にしかできない離れ技である。
諏訪敦彦(映画監督)
その辺の普通の人たちのいつもの生活が、気味悪いほど確信に満ちた映像で撮られることによって何やら神聖なものに見えてくるから不思議。たかはしそうたは若くして映画の本質をつかんでしまったようだ。カメラがゆっくりパンを開始する度に、僕は自然と襟を正した
黒沢清(映画監督)
生きることを物語に要約しないことで、毎日の暮らしのどうでもいい細部にひそむ不安が見えてくる、隠された日常の発見。
谷川俊太郎(詩人)
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横浜の小さな町を舞台にした『上飯田の話』4月15日(土)ポレポレ東中野にて公開。