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神は細部に宿る

神は細部に宿るという言葉がある。ここでは、それと聞き上手の関係について考えてみたい。

神は細部に宿るを言った人

この言葉をどこかで聞いたことをある人ば多いのではないか。発言者として有名なのは、建築家でもあり多くの家具のデザインもした、ミース・ファン・デル・ローエだ。バルセロナ・チェアという椅子を作ったことで最も知られているだろうか。

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世界を代表する近代建築化の一人で、三代巨匠の一人とも言われる。いわゆるモダニズム建築を代表するバウハウスの校長を勤めている。シンプルな構造を目指した彼が言う言葉が「神は細部に宿る」であったというのが面白い。サグラダファミリアを建てるときの言葉ではないのだ。

由来と意味

「神は細部に宿る」、英語で"God is in the details”を翻訳したものなので、なんのてらいもない直訳だ。この言葉自体は、ローエが言う前から存在していたらしい。フランス作家のフローヴェールが言い出したという説や、その前からユダヤ人の間では諺として広まっていたという説もあるようだ。

意味としては、「細かいところまで気を配ってこそ、本当に価値のあるものが生まれる、だからこそ作品を作る人間はぱっと見てわかる部分だけでなく、細部までこだわりを持ってその作品を作らなければならない」ということになるだろう。

自分がここで気をつけたいと思ったのは、ローエがキリスト教文化圏の人なので、当然ながら”God”が単数形であることだ。日本語で「神」というと八百万の神を無意識的に意識してしまうので、いろいろなものの細部、それぞれに神が宿っている姿を想像してしまうということだ。もちろんそれも誤りではないが、おそらくローエが想像していたのはそれとは違う唯一絶対の神のイメージだっただろう。すると、言葉の意味も両者で異なる。

八百万の神だと、みんなそれぞれに神があって、どれもちょっとずつ違うけど価値はあるよね、No1じゃなくてもOnly1でいいよねみたいな感じになっている。ローエの発言は、より切実な、宇宙の真理に基づく建築を作るためには徹底的に細部にこだわらなければならない、という決意表明に近かったのではないか。

自分が仕事をする上でも、ローエくらいの覚悟と理想を持って何かを作りたいし、そうできているか常に戒めねばならんと思う。

聞き上手と「神は細部に宿る」

さて、この話を聞き上手はどう関連しているのだろうか。「暗黙知」が2つをつなげる言葉であると思う。以前も書いたが、

https://note.com/kamichof/n/nda9bd5c1d8a6/edit


暗黙知と聞き上手は密接にかかわっている。暗黙知とは言語化できない、アナログ的で経験的・身体的な知識のことを指す。ローエの言う「細部」がまさに言語化できない、身体的な部分のことを示している。そしてその暗黙知を聞くための手法として、「聞き上手」のアプローチが極めて有用である。そしてそれは、人の話を聞く態度にとどまらず、世の中全般を理解し、意識する際のアプローチ方法としても展開可能だ。つまり世の中の細部に対して開かれた意識を持ち、感覚的に受け入れる行為そのものが「聞き上手」でもあるのだ。

すなわり、「神が宿っている細部」を認識し、受け入れる行為そのものが、聞き上手であり、聞き上手の方法論がそうした認識や行為に役立つということだ。

どう聞けば良いのか

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ではどんな風に?例えばとある製品開発の現場で、どう話を聞くか。その製品は表面加工が極めて重要で、その巧拙で品質と顧客満足に大きな影響が出るとしよう。

通常であれば、その表面加工に置いてどの程度の精度で、どのような機械をどのように用いて表面加工を行うのか、その際に気をつけるべき点は何か、などを聞いて見える形でまとめて行くだろう。もちろんその作業は重要だが、それらはあくまで形式知であり、「細部」と呼ぶにはあまりにも大枠であると認識するべきだ。

これらに加えて、その加工を行う際の思い、経験を聞くことで細部へ近づくことが可能となる。たとえば現在の技術に到達するまでの苦労、工夫、その際にどのような思いでこの努力を続けることができたのか、などだ。それらは一見、関係のない話に思えるかもしれない。しかし、例えば苦労を語る中で、ある日できるようになった瞬間のことに話がいくことで、できる水準とできない水準の違いとそれを分ける行動が何か、が口から出てきたり、どの程度の注意を払うことで表面の水準を認識できるのか、といった、直接聞くだけでは言い難く、またこちらも質問し難いことに対するコメントが出てくることが期待できる。また言葉だけでなくその際の言い方、力強さや意識の向き方などから、何がどれほど重要なのかを理解することも可能になる。

すなわち、聞き上手において求められる
・気持ちを聞く
・実際の経験を聞く
・その時の意思、考えを聞く
・情景を思い描けるように聞く
と言った行為そのものが、細部の理解に役立つ、あるいはそれこそが細部そのものであるとも言えよう。

もう一つは大前提としての信頼関係と自己肯定感が満たされた関係性である。それがないと、細部を思った通りにそのまま話すことが難しく、話者の意図をいれた形式知的な言葉へと、意図せず変化してしまう恐れがある。

さらに展開すれば、話を聞くときだけではなく物事を観察するときや考察を加える際にも、抽象度の高いままで認識するのではなく、その背景にある事象や物体、具体例を思い描きながら思考をすることそのものが、細部への認識を高め、本質に迫る可能性を高めると言えるのではないだろうか。

論理的考察に加えて、ただ感じるだけの行為がいかに重要か、がこうした観点からも導けると思う次第でもあり、本質的に価値のあるものを作ることがいかに難しいことか、を再確認する次第でもある。

おまけ “Less is More”

ローエの残した言葉にもう一つ有名な言葉がある。”Less is More”だ。バウハウス建築を提唱したローエらしい言葉でもあるが、この言葉もまた、違う文脈から聞き上手の考え方に近しいと思う。

すなわち聞く際の態度として、極力自分を出さずに相手の主体性に委ね、できることならばこちらから言葉を発しない。これもまた、物事の本質に近づくための最も重要なツールの一つである、ということではないだろうか。


神山晃男 株式会社こころみ 代表取締役社長 http://cocolomi.net/