複数人での聞き上手
実のところ、今までまとめてきた聞き上手=ディープリスニングの手法は、1対1で話を聞くことを前提にしている。セミナーや研修の場でも基本的に話し手が一人、聞き手が一人でケースを作っている。
しかしながら、先日紹介したようなオープンダイアログのケースもあるし、
弊社「親の雑誌」は、基本的に2人一組で訪問取材をしている。また、ビジネス向けの業務改善ソリューションにおけるインタビューも、複数人で聞くことの方が多い。
複数人で人の話を聞くべき時に気を付ける点を考えてみたい。なお、話し手が複数のケースもあるが、今回は割愛したい。
とはいえ、基本は変わらない
とはいえ、基本は変わらない。心構えがもっとも重要で、技術や人柄は後からついてくる。特に心構えについては、複数いると気が緩みがちになるのでより強い意志が必要になる。
相手に興味を持ち、関心を持って話を聞く。感情に共感し、受容する。この点を気を付けて話を聞くことを心掛けることだけできていれば、複数人でも十分に気持ちが伝わる。むしろ聞くエネルギーが相手に伝わるので、よりよい聞く場を作ることができるとはいえるだろう。
基本的な役割分担
とはいえ、複数人がばらばらに聞き、都度オウム返しをしたら、いくらなんでも耳障りだし、質問をしたいだけしたら、結果として記者会見のようになってしまう。それでは話し手の話したい気持ちを満足させることはできない。
したがって、複数人の聞き手がいる場合、メインの聞き手を誰かにすることを推奨したい。話し手が話をするときに、目を見る相手だ。この聞き手が最も近い位置にいて、かつ真正面を避けることが望ましい。とは言え真正面の席が空いているのも不自然なので、ここに2人目が座ってもかまわない。
2人目以降のメンバーは、基本的に音声は発する必要はない。ただし、非音声のコミュニケーションは普段よりも活発に行う。つまりうなずき、話し手を見る、等だ。2人目以降はメモを取る役割を担うことが多いと思うが、その際にまったく無反応にPCに向かっていたり、メモを取っていると、たとえ相手の話を集中して聞いていたとしても、場の一体感はそがれてしまう。集中を切らさず相手に集中し、音を立てずに聞いていることを伝える姿勢が重要だ。
とはいえ、質問を絶対にしてはいけないというわけではない。ここだ、というときに聞きたいことを聞いたり、オウム返しが自然と入ったりするのはいいことではある。一番おおもとにある、話し手に対する関心にしたがって行動することが重要だ。
お互いに目を合わせる
複数人だからできることもある。とても驚く話が出たときなどに、聞き手同士で目線を合わせる。そしてそれについての感想を言う。これは、それがどれだけ驚くようなことだったんですよ、ということを伝えるアクションとして有用だ。
高齢者に対してであれば、戦争体験などをお聞きするときや、時代だからあったこと、その時のご本人の強い意志や思いなどだ。ビジネスであれば、他の部署がまったく知らないであろうことや、会社にとって極めて重要な事実、そこで話し手が果たしている役割など。
これを行うことで、一人ひとりが受け止めましたよ、からこの場にいる全員があなたの一番言いたいことを受け止めましたよ、というメッセージに変わる。これはとても力強い。
感想を言い合う
オープンダイアログでは、リフレクティングという時間を設けている。話し手がいる場で、話し手が黙り、それまでの話の感想を聞き手同士でしあう。そのような場を意識的に作らずとも、聞き手同士で感想を言うことは、極めて効果的になる。
お話の感想を直接相手にぶつける行為は、時として直接的になりすぎたり、評価する姿勢につながってしまう。「褒める」行為は時として上から目線になってしまうため、「感心」すべきだが、この2つを明確に切り分けて話をするのは実は難しい。
そこで、聞き手同士で感心したことを言うと、上から目線にならず、また嫌味やお世辞にならずに、相手の話に対する尊敬の感情を伝えることができる。
これは正の感情や事実だけでなく、負の感情や事実に対しても同様に有効だ。ただし、負の感情を特に意識せず共有してしまうと、共感できていないような物言いになってしまうこともあるので、この点だけは気を付けてほしい。
例えば面と向かって、「〇〇さんは寂しくてつらい、のですね」というのを、聞き手同士で、「〇〇さんは寂しくてつらい、のですね」と言ってしまうと、突き放した物言いになってしまう。
一方で、出来事に対して、
「〇〇さんは東京で大変つらい出来事にあったのですね」などと聞き手同士でいうのは、その場全体で聞く場を作るうえで有効だ、というのはイメージしやすいのではないだろうか。
「私はあなたの話を聞いています」から「私たちはあなたの話を聞いています」へ
要するに、複数人で話を聞くときに達成したいのは、「私はあなたの話を聞いています」ではなく、「私たちはあなたの話を聞いています」というメッセージを話し手に届けることだ。そのためには、
① 一人ひとりが話し手に対して関心を持ち、共感し、受容する
② その場全体が、話し手に対する空間になり、話し手の気持ちを全体で共感し、受容する
ことの2つを目指すことだ。そして②を実現するためには、聞き手同士のコミュニケーションが欠かせない。
今回は割愛したが、話し手が複数人いる場合は、この聞き手グループにメイン話し手以外を巻き込み、それをずらすことで全員に対して話し手になっていただく、等の手法が有効でもある。特にビジネスインタビューで複数を対象にする際は有効だ。
いずれにせよ、聞く行為をより高めに持っていくためにできることは多く、まだまだ可能性が先行している段階だと思われる。これからも個別の手法の開発を急ぎたい。
追記
オープンダイアログについては、一緒に体験した橋本さんがまとめてくださっているので、こちらもぜひ読んでいただきたい。
https://note.com/daigo7/n/nd8ca358cf3ff
神山晃男 株式会社こころみ 代表取締役社長 http://cocolomi.net/