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「風呂キャンセル」が追い詰める精神疾患患者─“入れない”人の現実



1. 「風呂キャンセル」をめぐる誤解


最近、SNSで「風呂キャンセル」という言葉が話題になっている。
「お風呂が面倒くさい」「入らなくても問題ない」という投稿が拡散され、一部では「風呂キャンセル界隈」として盛り上がっているようだ。

しかし、ここには大きな誤解がある。
「風呂キャンセル」と一括りにされる現象の中には、単なる「面倒だから入らない」という人だけでなく、「入りたくても入れない」人がいることが見落とされている。

特に、精神疾患を抱える人々にとって、お風呂は「当たり前」にできるものではない。
「入浴できないのは怠けているから」「不潔でだらしない」といった社会の反応は、当事者をさらに追い詰めてしまう。

2. 「入らない」ではなく「入れない」──精神疾患と入浴困難


精神疾患、特にうつ病や社会不安障害を抱えていると、日常の基本的なセルフケアが極端に難しくなる。

「お風呂が面倒」という感覚ではなく、もっと深刻なものだ。
• 「入らなきゃ」と思っても、身体が動かない
• 頭がぼんやりして、何をすればいいのか分からなくなる
• 「服を脱ぐ」「体を洗う」「髪を乾かす」という一連の流れが途方もなく感じる

これは、「10キロの錘をつけて生活している」と考えてみてほしい。
何をするにも重く、動くたびに疲れる。ソファや布団から立ち上がるだけでも一苦労。
それなのに「なぜ動かないの?」と責められたら、ますます身動きが取れなくなるだろう。

精神疾患による入浴困難も、それに近い感覚なのだ。

3. 「怠け」と決めつける社会が追い詰める


「風呂に入れない」と言うと、すぐに「不潔」「自己管理ができていない」と批判される。
しかし、精神疾患の人にとって、それは「清潔にすることを放棄している」のではなく、「できない」状態である。

実際、入浴ができない人の中には、できる範囲でケアをしている人も多い。
• ボディーシートやドライシャンプーを使う
• 洗顔だけはなんとかする
• 服を着替えて清潔感を保つ

それでも、「お風呂に入らないこと=だらしない」と決めつけられることで、当事者はさらに罪悪感や自己嫌悪に陥り、悪循環に陥る。

4. どうすればいいのか? 無理のない対処法


風呂に入ること自体がハードルになってしまう場合、いきなり「全部やろう」としないことが大切だ。

少しずつ段階を踏む

• シャワーだけ浴びる
• 体を洗わなくても、とりあえずお湯をかぶる
• 入浴剤を入れて、リラックスできる環境を作る

代替策を活用する

• ボディーシートやドライシャンプーで最低限のケアをする
• 髪が乾かせないなら、短く切る

「動けないこと」を責めない

• 無理に「入らなきゃ」と思い詰めない
• 体調が悪いときは「今日は休む」と割り切る

完璧にこなそうとすると、ますます動けなくなる。
大事なのは、「できる範囲で少しずつ対処すること」だ。

5. 「風呂に入れない人の現実」を知ってほしい


「風呂キャンセル」を話題にする人の中には、単に「お風呂が面倒」という軽い気持ちで言っている人もいるだろう。
しかし、「風呂に入れない」ことが深刻な問題になっている人もいる。

「入らない」のではなく「入れない」。
その現実を知らずに、「怠けている」「不潔だ」と決めつけることが、どれだけ当事者を追い詰めるかを考えてほしい。

「清潔にすることは大切」というのは正論かもしれない。
でも、まずはその前に、「なぜできないのか?」を理解する視点が必要なのではないだろうか。

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