未来に続く一手|ベトナムの紙工房を訪ねる
手仕事は消え行くのか。
手漉き紙は今の時代に必要か。
これまでに何度も抱いた疑問が差し迫った状況を、ベトナムで目の当たりにした。
はじめに
「紙の注文がなくて街に売りに行ったけれど誰にも見向きもされず、やっぱり紙を作って生活していくのは難しいか…と途方にくれていたとき、Zo Project に出会いました。
今では彼女たちからの注文を中心に、手漉き紙の収入だけで生活できるようになっています。」
ベトナム・ハノイから1時間半離れた山間の紙工房で、職人の方が話してくれた言葉だ。
ベトナムでは紙工房は減少の一途を辿り、稼働している工房は5軒だけだという。
今回 Zo Project (※) のツアーで訪問した工房も、一度は閉鎖して紙漉き技術が途絶えたのちに、政府の技術指導を受けて復活したと教えてくれた。
※ Zo Project
ベトナムの伝統的な手漉き紙を受け継ぐため、起業した社会企業。ノートやグリーティングカードのデザイン、販売だけでなく、紙工房のツアーやカリグラフィーと製本のワークショップなども開催している。
http://zopaper.com
売れないものは作られない。
お金にならない仕事は消えていく。
機械で作られた紙が安く手に入り、ペーパーレスが叫ばれる時代に手漉き紙が売れないのは当然で、工房が閉鎖するのは仕方がない。
そんな状況の中でも、「ベトナムの伝統的な手漉き紙がこのままなくなってしまってよいのだろうか」と立ち上がった Zo Project と、その思いに答えるように紙を作る工房の在り方に、心動かされた。
今日は、ベトナムで訪問した紙工房のことを書きたい。
工房ツアーの日程
ベトナムの紙の材料
ベトナムの手漉き紙の材料は、DóとDướng の2種類の植物である。
Zo Project の工房ツアーでは、材料を刈り取って木の皮を剥ぐ工程から体験できる。
「紙は木からできている」と頭では分かっていても、実際に木の皮を剥ぎ、煮込んで柔らかくし、繊維を叩く過程を体験してから紙を漉いてみると、「本当に木からできてるんだ!」と実感する。
紙の原料は、工房とは別の山で刈り取り加工されてから工房に売られることが多いため、皮を剥ぐ工程から体験できる場所は珍しい。
紙の作り方①溜め漉き
紙の漉き方は大きく2つに分けられる。
一つが、紙を漉く枠の中に材料を入れて平らにする「溜め漉き」。
今回のツアーでは、1人一枚ずつ紙を作り、自分の好きな植物を漉きこんだ。
紙の作り方②流し漉き
もう一つの漉き方は、大きな容器に拡散させた紙の繊維を掬い取ってならす「流し漉き」。
購入できる場所
Zo Project がデザインした紙製品は、ハノイのお店で購入することができる。店舗では定期的に製本ワークショップやカリグラフィーの授業を行っているので、ハノイに行かれる際にはぜひ立ち寄ってみてほしい。
次の2枚の写真は、ハノイのお土産屋さんでよく見かける色鮮やかな切り絵のカードと、Zo Project の落ち着いたデザインのグリーティングカード。
ほぼ同じ価格なのだけど、お土産として選ばれやすいのはどちらだろう?
おわりに
ベトナムの手漉き紙を受け継いでいくための Zo Project の活動によって、1つの紙工房が存続の方向に向かった。
手漉き紙を取り巻く環境は悲観的に見えることが多いけれど、誰かの小さな行動で、未来に繋がることもある。
紙を売るためには、よいものを作るだけではどうしようもない。
紙を伝える人、届ける人、よさを感じて購入する人、使う人が必要だ。
働きかけるべき点がたくさんあって、考えすぎるとどこから取り組めばよいのか分からなくなる。
けれど、わたしはとにかく、「100年後も手漉き紙が生きていたらいいな」と思う。
その思いだけを頼りに、今年もわたしにできることを選び取っていこうと感じた1日だった。
▽ Zo Project との出会い