春ギター(#毎週ショートショートnote)
公園の桜は満開だ。
赤ら顔で缶ビール片手にはしゃぐ彼らは会社の仲間だろう。
とても楽しそうだ。
シートの上で二人の世界に入って語り合うカップル、とても幸せそうだ。
ゆっくりな足取りで散歩するおじいちゃんとおばあちゃん。
桜の花はみんなを幸せにしてくれる。華麗に咲いて、惜しげもなく散る桜。この世に未練を感じさせないのも桜の魅力かもしれない。
花見の喧騒の中、僕は毎年ギターを弾いている。
誰も聞いてくれるわけではないけれど。
やっぱり春はいい。
出逢いも別れも一緒に連れてくる春。
喜びも悲しみも一緒に連れてくる春。
そんなことを想いながら毎年奏でるギターの音色。
今年はどんな一年になるのだろうか、みんな期待と不安でいっぱいなのだろう。
やっぱりそんな春が好きだ。
その想いでギターを奏でる。
夜も更け、人も少なくなり、桜舞い散る中、来年もまた春ギターを弾こうと決意し、僕はギターを置く。
そしてVRゴーグルを外す。
毎年の仮想空間での花ギター。温暖化で日本から季節がなくなった。
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