洞窟の奥はお子様ランチ(#毎週ショートショートnote)
半年に一度、百貨店のレストランでお子様ランチを食べ、屋上の遊園地で遊ぶのが唯一の贅沢だった。
しかし、その百貨店は10年前に閉店した。
都会ではITバブルやら、リーマンショックやら、景気に波があり、好況だった時もあるようだが、地方経済は40年失われたまま。
洞窟の中を歩くように毎日もがきながら生きてきた。
昔夢中になったロールプレイングゲームのように、黙々と仲間と作業をこなし、苦労を重ねながら、必死に家庭を育んできた。
ともに戦った妻は冒険の途中で旅立った。自分にもさほどの時間は残されていないであろう。いつでも妻のもとに行く準備はできている。
と思っていたが、この年で孫ができた。
もう少し頑張って冒険してみようと思う、一緒にお子様ランチを食べるまで。
長い洞窟を歩いてきたが、その奥で一緒にお子様ランチ。
これ以上の楽しみはないだろうな、仏壇の写真に手を合わせて謝った。
「そっち行くまで、もう少し時間がかかる」
少し妻が微笑んだ気がした。