決闘年越しそば(#毎週ショートショートnote)
若いアイドルの歌と踊りからはじまり、今は中堅のステージ。
爺さんは日本酒を片手にあたりめを持ちながらウトウトしている。
こたつの上にはミカンの入った籠が置かれている。僕はそこからミカンをとって食べた。
妹は好きなアイドルのステージが終わったからか、マンガを読み始める。
父さんは瓶ビールをコップに注ぎながら、大好きな演歌歌手の出番を待っているようだ。
母さんは明日の雑煮とおせちの準備のため、台所にいる。
大トリの大御所歌手の歌が終わった。
日本野鳥の会のメンバーがカウンターをカチカチしている。
「今年は白が勝つでしょうか、紅が勝つでしょうか」
総合司会のアナウンサーがテレビで叫ぶ。
「いよいよ決闘の結果が出ます」
「今年は白の勝利です」
その頃、決着がつく頃、母さんが台所から年越しそばを持って茶の間に来る。
そうして、テレビは除夜の鐘に切り替わる。
僕らが小さい頃はずっとこんな感じの年越しで、これが続くと思っていた。
今年、父さんは「紅白はもう歌手がわからないから見ない」といった。
30年って長いようであっという間だね。
そういえば母さんも紅白決闘年越しそばをつくらなくなった。