考えろを考える
「ラグビーは頭を使うスポーツや。」
「考えなあかん。」「今、グラウンドで何をすべきか考えろ。」「もっと考えろ。もっと頭を使え。」
僕が幾度となく、指導者、先輩たちから言われ、優れた先人たちの著書などから学んだ言葉だ。
しかし、白状すると現役時代に「考えろ」の本質的な意味を理解し、行動することは出来なかった。
僕は妄信的に設定された練習メニューや自身の思い込みでの練習を繰り返していた。
それでは当然に監督やコーチの期待を超えるプレイは出来ず、試合に出られる機会も勝ち取れるはずがない。
故に、僕はラグビー選手として満足のいく結果を残すことが出来なかった。
時間が経った今、先輩たちの「考えろ」について考えてみたい。
ラグビーは、人対人でプレイするスポーツだ。
細かなルールはここでは割愛するが敵も味方も同じルールのもと、得点をどちらが多く獲得できるかのゲームだ。
そのように考えると、サッカー、バトミントンなどのスポーツやトランプ、将棋などのゲームも相手に勝つことを目的としたゲームだと捉えれば同じカテゴリーだと考えられよう。
では、それぞれのゲームで何がその同一カテゴリーを隔てるのか。
勿論、それぞれのゲームに設定されたルール(制約)にある。
例えば、ラグビーの醍醐味と言えるタックルがある。
将棋で攻められているときに相手にタックルして指手を止めてしまっては反則負けを喰らうばかりか、そんな恐ろしいやつとはもう将棋を指すことはできないと評判になるだろう。
一方、ラグビーでは流れを変える良いタックルをすれば、そのゲームのヒーローとなる。
つまり、相手に勝つという目的は同じでもルールが違うと全く違ったゲームになる。
そんなことは当然。と思うだろうが、これは大切なことだ。
話をラグビーに戻す。
では、ラグビーで「これをしては負ける(※)」というルールは何か。
※反則を繰り返すことで相手が優位になり、負けに近づく。
危険なタックル、オフサイドプレイ、倒れたプレイヤーがボールを確保し続ける行為、モールやスクラムを故意に崩す行為、などが挙げられる。
更に反則ではないがミスの代償として「これをやれば相手が有利になる」というプレイもある。
ボールを前に落とすプレイ、ボールを前に投げるプレイ、自陣22m範囲外からのダイレクトタッチ、などが挙げられる。
要は、上記の反則やミスを繰り返すことで負けに近づくのだ。
ここでテーマの「考えろ」の出番だ。
敵も味方も同じルールで戦っているので、上記の反則やミスを繰り返すことで負けに近づくのは相手も同じなのだ。
つまり、相手に上記の反則やミスを繰り返し誘発させることが出来れば、こちらが勝ちに近づくのだ。
では、ラグビーにおいて相手に反則やミスを誘発させるプレイとはなにか。
僕が考えるに相手にプレッシャーを与えるプレイだ。
具体的には攻撃側で考えると、
相手にオフサイドプレイ(反則)を誘発させるために、ゲインした際は意図的にラックを作り素早くボールをパスアウトする。
また、相手にコラプシング(反則)を誘発させるために、重心の低いモールやスクラムを組み、長い時間をかけること。が挙げられる。
あるいは、ダイレクトタッチ(ミス)を誘発させるために、キックでタッチライン付近にボールを運び、浅くなりすぎない位置でカウンターポジションを取ること。が挙げられる。
防御側で考えると、
相手にノットリリースザボール(反則)を誘発させるためにタックル成立後には一人目ないしは二人目がボールに手を伸ばすこと。が挙げられる。
また、ノックオン(ミス)を誘発させるためにDFラインの出足を速く前に進めること。などが挙げられる。
上記のような相手にプレッシャーを与えるプレイを80分間でいかに継続的にかつ質を高くできるかが勝負の肝となるのである。
そのような視点を持つことで試合前に対戦相手のプレイ映像を見る際にも、相手の弱み(頻繁に起こしているミスや反則の出どころ)を突き、そして相手の強み(相手のミスや反則を誘発する優れたプレイ)を避ける。そのようなプレイをするためにはどう戦術を組み立てるか?そういった視点で映像を見て、考え、チームを統率することがてきる。
決して、いつもの僕たちのプレイをするためにはどうすれば良いか?という視点では相手を見ないほうがよい。
なぜなら、毎試合相手の強みと弱みは違うからだ。
ここまで記載してきたように、勝つためには相手の弱点を突き、強みを避けること。それを80分間継続的に質を高く実践することだ。
よって、チーム作りにとって重要なことは、特別なスキルの取得や敵を圧倒するフィジカルを身に着ける。ではない。
基礎的なスキルを身に着け、基礎的なフィジカルレベルを獲得し、相手にプレッシャーを与えられる土台を作ること。
そして、柔軟な戦術を組み立てられる思考力を育むことだ。
基礎的なスキルはパス、ラン、キック、タックル、セットプレイと様々あるがいずれも試合の場面を想定した切り取り型の実践形式を繰り返し行うことが最も効果的に上達するであろう。
スキル練習の際には相手のプレッシャーがある中においても安定的にプレイができることが目的とし、相手を付けた練習が必須であろう。
特にタックルについては根性論で語るのではなく、相手を付け、ゆっくりしたスピード(初めは止まっていても良い)で最も力を出せる姿勢、パッキング、踏込みを繰り返し練習することで必ず上達する。その基礎ができてから相手のランコースの押さえ方、ボールに絡むタックルなど次のステップに進めばよい。
足し算を習得する前に掛け算や割り算を習うことは目先の手段は獲得できるかもわからないがその後の積上げが期待できない。
フィジカルはビッグ3を中心とした効率的かつ効果的なウエイトトレーニングによって重量を増やす。
ジャンプやダッシュでスピードトレーニングを行い速さを強化する。
インターバルトレーニングで回復力を強化する。
つまり、最大出力と回復力を鍛え、80分間継続的に強い力を出す状態を作ることが重要であろう。
現役時代に感じていたことは、選手は忙しく、やることに追われている。
上記以外を目的としたフィジカルトレーニングは不要と整理すべきだ。
些末なトレーニングに時間を使うくらいなら帰って寝たほうが確実に良い。
最後に、思考力は問いと自信によって育まれる。
問いとは、コーチや監督が質問を通して選手に考えさせ、判断させ、意見を持たせることが第一歩である。
自信とは、プレイを任せられ自身での責任の中でのプレイとその結果を受け止めることが第一歩である。
まとめると、問いを通じて選手に意見を持たせる。意見を持った選手には任せ、責任を持たせる。これが思考力の育くみ方ではないだろうか。
今回、先輩方の「考えろ」を考えた結果、基礎の積上げと選手の主体性の重要性に行き着いた。
今回の持論はあらゆるゲームに活用できるのではないだろうか。
是非、ビジネスやスポーツなどのゲームに参加する方は考えろを考えて実践頂きたい。