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悪ふざけが過ぎてワタコを冷凍室に閉じ込めてしまい殺しかけた話

21歳の夏、僕はワタコと一緒にとある温水プール施設でバイトをしていた。

そこは大阪では割と有名な大きい施設で、僕たちは夏限定の出店でハンバーガーやらお酒やらを売り、合法的に水着を眺めながら小銭を稼いでいた。


とある日。
店長に地下にある冷凍室からドリンク用の氷を取ってきて欲しいと頼まれた。
その冷凍室は施設内の全飲食店が兼用で使うもので、10畳くらいの広さがあり、棚には数多くの食品や氷が積み重なっていた。
僕とワタコはいつも通り談笑しながら地下へ向かう。

地下に到着し、僕は冷気を逃さないよう必要以上に重く、そして分厚く作られたドアを開けた。
火照った体の表面が白い冷気で一気に冷えていくのが分かった。

肝心の頼まれた氷は棚の最上段にあり僕1人では持ち運べそうになかった。
1人では持ち運べないとわかっていながら僕はワタコに代わってくれと頼み、懸命に手を伸ばし苦戦しているワタコをドア付近で眺めた。

「これ閉めたらどうなるやろうなぁwww」
「おいやめろよぉw」
信頼関係の上に成り立つ悪ふざけ。

僕はバレないようにその重い扉を閉めた。
「おいやめろよ〜」
分厚い扉のせいでワタコの声はささやき程度にしか聞こえない。

「ごめんwごめんw」
しょうもない悪ふざけである自覚はあったので、僕はすぐさま扉を開けようと大きいノブに両手をかけた。


ガッ、ガガッ、ガッ、、、、

(、、、、ヤバイ全然扉開かへん!!!!マジでヤバいっ!!!!詰んだ!!!)


「おいやめろよ〜」
室温0度近い部屋で呑気に呟く友達。

「ヤバい!!何か扉開かへんくなった!!ヤバい!!ごめん!!え!どうしよ!!ヤバい!!うわ!!え!?あかんっ!!!」

「、、、、、、、えぇ?」
室温0度近い部屋で衝撃の事実を突きつけられた可哀想な友達。

冷凍室は古びていて扉の建て付けも悪く、また電気も切れていて真っ暗。
ふざけていい要素なんて一つもなかった。


ワタコが半袖短パンサンダル顔濃いめである事に気付いたと同時に僕は完全にパニックに陥った。
(あかんやってもうた、俺の悪ふざけで友達殺してまう)

僕は分厚い扉の奥に居てこれから何の障害もなく凍死に向かう彼に届くよう、最大限の声で
「警備員室行ってくる!!!何とかしてくれるかも!!!ちょっとあの、、、うん、その、、、、マジで何とか耐えてくれ!!!!」

扉に耳を押し当てると微かに
「、、、分かったぁ」と聞こえた。

そして僕は走った。とにかく走った。
警備員室は幸運にも同じ階に位置していたが、この状況は1分1秒を争う。
親友の命は僕にかかっているんだ。

警備員室の扉を開けるなり
「助けてくださいっ!!!!友達が死ぬかもしれません!!!」と叫んだ。
僕は年老いた警備員に、事の経緯を自らの過失である部分を除いて説明した。
猛烈に焦っている自分と、こんな状況でも冷静に保身している自分が交錯していて、うん、何かもうすっごい愚か者だった。

で、まぁその警備員は物凄く物分かりが悪いクソジジイだった。
状況も僕の気持ちも何も分かってもらえず
「俺には対応できひん」
とだけ言われた。

(対応出来ひんちゃうねん、友達死にそうやねんって!!俺のせいやけど!!)

恐らく5分近くその警備員室で必死に訴えかけていたと思う。
警備員室で無常に過ぎていく時間がとても怖くて、心臓のバクバクが止まらなかった。

僕は見切りをつけ別のフロアにある施設の社員事務所に走り出した。
廊下を走っている途中、ワタコと過ごした高校時代を懐古して、本当に死んでほしくなくて少し泣いた。

僕は社員事務所に向かう前にワタコに今の状況を説明して、もう少し辛抱してもらわねばと思い、もう一度冷凍室に向かった。

冷凍室に着くと何故か大きなドアノブが

ゴゴッ、、ゴゴッ、、

と上下左右無造作に動いていた。
どういう事か全く分からず僕は立ち尽くした。



ゴゴゴゴゴゴッッ、、、、ズザァ〜、、



重い扉がこれでもかとゆっくり開いた。
いや、スローモーションに見えただけかもしれないが。


中から真っ白な冷気を身に纏ったワタコが一歩ずつゆっくり出てきた。







ターミネーターかと思った。

ターミネーターかと思ったけど、それ以上に無事だった事が本当に嬉しくて僕は
「ほんまに良かった!!」
と勢いよく抱きついた。

親友はキンッキンに冷えていた。


後から聞いたがワタコは即座に僕がパニックになったのに気付き、逆に冷静でいようと思ったそうだ。
長期戦を見据え体力と精神の消費を抑えるため、じっと直立不動で過ごしていた。
そこでふとスマホを持っている事に気付き室内をライトで照らすと、近くに閉じ込められた際の緊急脱出方を記した注意書きがあり、それに従い脱出した、と言う事らしい。


あれから毎年夏になるとこの事を思い出す。
あとワタコが絶対年下の客に眼前でブチギレられて、何を言い返すでもなく直立でバキバキに固まっていた事も。










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