退院前夜の出来事
2007年の夏。
私はある病気の治療のため、都内の某大学病院に入院していました。
それほど長い期間ではなかったので、少し贅沢をして個室に入っていたのです。
結構な高層階で、部屋の大きな窓からは都心のビル群が一望できました。
夜は夜景が素晴らしく、ラッキーなことに東京湾の花火大会なども見ることが出来、思いのほか快適な入院生活となっていたのです。
いよいよ明日は退院という晩のこと。
この夜景も見納めかと思うと一抹の寂しさがありました。
入院した時は1日も早く家に帰りたいと思っていたのに、もう少しここにいてもいいかなという気にさえなっていました。
あれは…夜の8時過ぎだったでしょうか。
もう少し夜景を眺めていたいと思ったものの、とりあえず寝る支度だけはしてしまおうと、部屋の入り口横にある洗面所で歯を磨いていたのです。
しばらくすると、誰もいないはずの室内から
突然どわっと笑い声が聞こえました。それと同時に何人もの人間がわいわいと話す声。
え、なに?!と思い、恐る恐る室内を覗いて見ると…
消してあったテレビがついている!
しかもありえない大音量!!!
え、どゆこと?!
映し出されているのは楽しげなバラエティ番組でしたが、気味が悪くなった私はすぐに電源を切り、それだけでは安心できないのでコンセントも抜き、まだまだ夜景を楽しむために全開にしてあったカーテンまでしっかりと閉め、早々にベッドに潜り込み、布団をかぶって寝てしまいました。
それだけ怖い思いをした割にはよく寝た次の朝、検温に来た看護師さんに前夜の出来事を話してみたのです。
すると看護師さんは明るく笑ってこう言いました。
「アハハ!それ、よくあるんですぅ。
隣の部屋のリモコンに反応しちゃうんですよね〜
オバケとかじゃないから大丈夫ですよ〜」
それを聞いた私は「あ、そうなんですか…」と答えたものの、全然納得はしていませんでした。
なぜなら隣の部屋が数日前から空室になっていることを知っていたから…
そして思ったのです。
昨日の夜のような不思議な現象は、やはり病院ではよく起こることなのだ。
そのため看護師さんたちの間には、患者さんを怖がらせないための対応マニュアルのようなものが存在するのだ。
看護師さんの予想外に明るい反応にかえって不気味さを覚えた私は、その後さっさと退院手続きを済ませ、逃げるように病院を後にしました。
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