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【読書日記】7/19 女性の生き方を考えた。「らんたん/柚木麻子」

らんたん
柚木 麻子 (著) 小学館

「信仰を持っている人は強いから」
私の母に中高一貫のミッションスクール(女子校)に進学することを祖母が勧めた理由だそうです。昭和30年代初期の話です。

その話を聞いたのは、私自身が高校進学の頃なので昭和末期なのですが、ふーん?そんなものかな、と私はあまりぴんと来ませんでした。
本書を読んで、数十年ぶりに祖母の真意が分かったような気がしました。

本書は、恵泉女学園の創立者、河井道とその教え子で道を終生支え続けた一色ゆり、この二人を中心に明治から戦後までの女性の教育と社会的地位向上に携わった多くの人々の歩みを描く大河小説です。

河井道は、北海道でキリスト教に出会い、新渡戸稲造に学び、その支援を受けて米国のブリンマー大学へ進学します。
帰国後は、津田梅子の開いた女子英学塾の講師を務め、生徒であったゆりと出会います。
その後、二人は互いに支え合い、ゆりが一色乕児と結婚した後は一色家も共に、キリスト教教育を基盤とした恵泉女学園の設立に奮闘し、戦時中もその教えの火を絶やすことなく守り続けました。
本書は小説ですが、柚木麻子さんは恵泉女学園出身でゆりの娘・一色義子氏が恩師とのことで史実に基づいて書かれています。

道たちの姿は、どんな逆境にあっても誇り高く、気迫に満ちていて粘り強い。その精神的な支柱にあったのは、キリスト教の教えなのでしょう。

大正生まれの祖母も優秀だった(自称)にも関わらず女だから、という理由で本人の望む進学を許されなかった一人です。
そんな祖母の目に、女性教育の大切さを説き、戦時下でも不屈の精神で前に進もうとしていた彼女たちはさぞかし頼もしく映ったのだろうな、と思います。
「信仰を持っているひとは強い」
今よりもずっと女性が生きにくかった時代、キリストの教えに基づく女性教育に祖母が希望を託したのも分かるような気がしました。

本書には、河井道だけでなく、新渡戸稲造、津田梅子を皮切りにベアテ・シロタまで日本の近現代史に名をのこす女性たちがこれでもか!というくらいに総出演しています。

彼女たちがそれぞれの立ち位置でそれぞれの信念に基づいてあるときは反発し、あるときは連携しながら、女性の教育を受ける権利の獲得、社会的な立場の向上(公娼廃止、婦人参政権獲得、男女平等等)、平和への貢献などの大きな目標に向かって前進してきたことが伝わってきます。

道を始めたくさんの女性たちが少しずつ道を開いてくれたおかげで、今の私たちが当然の権利として教育を受け、働くことが出来ています。
そのことに思いを馳せるとき、本書で繰り返し語られる道の信念「光はシェアしなければ。光を独り占めしていては、社会は暗いままですわ」ということばが心に残っています。
環境への配慮が進み、「シェア」という消費の仕方が進んでいる一方で、社会は寛容性を失い他人と何かを分かち合う精神は希薄になっているような気もします。
これからの社会について、下の世代へとランタンを引き継いでいかないといけない世代へと差し掛かっている身としては、自分がどうあるべきか、何をなすべきか考えさせられるのです。

最後に、恵泉女学園で短歌の講師として教鞭をとった柳原白蓮が作中で生徒たちに語ることばも合わせてご紹介します。彼女の人生を思う時、この台詞は重く響きますし、なかなか努力が実を結ばない私にとって勇気を与えてくれるものでした。

夢は叶うものですよ。でもそれは今すぐではなく、何十年も先かもしれません。私たちには戦うことと同時に、待つことも大切です。

柳原白蓮のことば「らんたん」より