観たよ『ゼイリブ』(記録 2022/03/18)
前から興味がある作品が無料だったのと、今の戦隊の元ネタになってるらしいので勉強のために観た。
暴力が多く実に痛快な作品で、単純娯楽としてゲラゲラ笑いながら観られた。
その上で風刺がビシッと決まっており、資本主義の裏に渦巻く陰謀、資本家に騙され盲いだ人々、そこから脱した者の戦いをこれでもかと痛烈に描いている。現代社会の寓話としていつまでも視聴に耐えうる名作。
……という見方すら皮肉った風刺作品。
見ようによっては「生活に行き詰まった挙句発狂し、ありもしない陰謀と戦うようになってしまった男の話」としても読み取れるように作られており、私としてはむしろその見方が想定解なんじゃないかなとさえ思えた。
特に顕著なのが序盤のドローンを撃ち落とすシーンで、わざわざ視点をサングラスの外側に切り替えてまで中空に銃を撃ち、存在しない破片を振り払う男を演出している。
もしここを「見えないドローンと戦うイカしたレジスタンス」の図にしたいなら破壊されるドローンを映すか、そうでなくとも爆発や破片を映像に落とし込んだ方が明らかに派手で効果的であり、それでも盛り上がりどころの戦闘シーンで一度現実世界を見せる選択に何らかの意図を感じざるを得ない。
他にも「エイリアンの本拠地には別の言語が書かれているのに、公用語はなぜか英語」「超技術があるはずのエイリアンが使用する武器がなぜか現代火器」など、描写の矛盾は枚挙に暇がなく、その上で「サングラスを通した視点は完全な真実ではない」という視座に立てば矛盾が解消されるという、狙ってなければ成立しない複雑な構造がこの映画の最大の特徴と言える。1時間半でこれはかなりすごい。
クライマックスに向け「外れないコンタクトレンズ」を導入したのも画面全体の虚実を曖昧にするための仕込みだったと推測している。要は「ここから先のシーンは全部妄想の可能性がありますよ」という宣言だ。
こういう視点から見た時に特に好きなのは中盤のゴミ漁りシーン。「自分を脅かす恐怖だったはずの陰謀(サングラス内の視点)に依存するようになる過程」のアレゴリーとして非常に良くできていると思う。
陰謀論の中毒性に関してはここ4〜5年、なんならアレがソレしたここ2年で大きく進歩した視点だが、それを30年以上前にここまでビシッと描けたのは興味深い。
他にも「終盤にエイリアンの超技術を『原理は知らないけどね』と嬉々として紹介する男に呆れるシーンがあるが、お前らもそのサングラス(コンタクトレンズ)の原理を気にしてないだろ」など、盲目になった者を笑う『目覚めた人』の盲目性を皮肉った展開はエスプリが効いており、なるほどこれは長く愛される作品だと思わせてくれた。
総評として、「特定政治思想への批判」という強いテーマを持ちながら、メインターゲット以外の既得権益層も「やはり改革派はばかだな」と笑いながら見られるというハットトリックに成功した作品。
欠点として特撮や劇伴など、映像面に関しては古臭いのを加味してなおかなり地味で面白みがないが、暴力かSFが好きならおすすめ。