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ああ神様、幸せになれると言って「来世ではちゃんとします」にみる普遍の祈り
※この記事は来世ではちゃんとします1〜9巻のネタバレを含みますのでご注意下さい
ああ神様、幸せになれると言って
もっとずるく生きることもできたわ
でも一番正しいと思えることをした
もっと幸せに…もっと幸せなりたい
このモノローグを読んだとき、初めてこの漫画の主人公である大森桃江ちゃんのことを身近に感じることが出来た。
「来世ではちゃんとします」は現在9巻までコミックスが発売されており、内田理央さん主演で実写ドラマ化もされている人気漫画だ。
(ちなみにドラマは2023年1月からシーズン3が始まるらしいのですが、私はまだシーズン2に入ったところなので頑張って追いつこうとしています)
CG制作会社スタジオデルタに働く人々を中心に、それぞれの性事情や過去のトラウマ、上手くいかない恋愛模様を描いている。
私がこの漫画で好きなのは労働環境はブラックなのに人間関係は超ホワイトなスタジオデルタの優しい空気で、特にセフレが五人いるが本命彼女にはなれない桃ちゃんと、桃ちゃんとは真逆に他者から性的な好意を向けられるのがダメな梅ちゃんの仲の良さが好きだった。
私は自分に近いのはBLとアリが好きで創作活動に邁進する梅ちゃんだと思っていて、男たちに振り回されて生きる桃ちゃんのことは愚かで可愛いなとは思うがまるで共感はしていなかった。
だが8巻で彼女は一時期同棲までしていたセフレのEくんを切り、自分をちゃんと彼女にしてくれる同じ職場の松田くんと幸せになることを望んだ。
その際の彼女の祈りが、一番最初の「ああ神様、幸せになれると言って」から始まり、「もっと幸せになりたい」で終わるモノローグだ。
ここ最近自分の将来や人生について考えることが多かったのもあり、この桃ちゃんのモノローグでホロッとしてしまった。
自分の幸せに他者が必要な桃ちゃんも、何者かになりたくてあがいている梅ちゃんも、突き詰めると望んでいるのは「もっと幸せになりたい」なのだ。
精神の弱い母を支える内に女性を依存させる体質になってしまった松田くん、漫画の才能が認められても風俗嬢の心ちゃんに入れ込み続ける檜山くん、自己肯定感の無さから処女にこだわり続けた林くん。
スタジオデルタの面々もそうだが、虚無を抱える風俗嬢の心ちゃんに、躁鬱の激しい同じく風俗嬢の梢ちゃん、女の子の格好をして生きる男の子の凪ちゃん……この漫画には癖が強く、おおよそ一般的な「正しさ」の中では生きていない人たちばかりが出て来る。
それでも結局のところ、全員の望みは「もっと幸せになりたい」に集約されるのはないか。
そしてそれは、この漫画の外で生きている私も同じだ。
もっと幸せになりたい。だから精一杯、自分が思う正しいと思えることを選択するのだ。
そう思った瞬間に、9巻で明かされた父親の事情を含め、今まで男の存在に振り回されながら生きてきた桃ちゃんのことを、愚かで可愛いなどと思っていたことを申し訳なくなってしまった。
違う…誰に愛されたとかじゃなくても
私は 私を肯定したい
誰にも振り回されないで
自分にも価値があるって
思えるようになりたい
自分を愛すること、人から愛されること、才能が認められること、好きな格好をして生きること。
人によって自分の幸せに必要なものが違っても、誰もが自分にとって最良だと思える道を模索している。
それに真人間じゃなきゃ
幸せになれない決まりもないし
1巻の松田くんのこの言葉が、ドラマではシーズン1最終回のラストで使われていて痺れてしまった。
この作品が伝えてくれる本質がここにある。
きっと来世じゃなくたって、今世で幸せになることだって出来るのだ。