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オタクを辞めても人生は続く「神クズ☆アイドル」の黒いちごさんは偉いという話

 2023年早々、私はとあるコンテンツとお別れしてきた。
 まだ展開としては続いているのだが、私が重視していた部分はもう店じまいしてしまったので、それ以上追いかける気持ちがなくなってしまったのだ。

 最後の最後までバタバタした終わり方だった。
 いつか終わりが来るのは分かっていたけれど、ここまで長く続いたのだから、コンテンツの始まりの部分なのだから、私を含め沢山の人たちが思い入れを持っているのだから、きっと最後は明るく楽しく笑顔で終わってくれるだろうという、甘い期待は打ち砕かれた。
 え、そんな感じなの?と何度も思った。
(抽象的すぎる書き方なので訳わかんないと思いますが、もうすぐ神クズの話題に辿り着きますのでもう少々お付き合い下さい)

 一番感じたのは、私が大事にしてきたものを、コンテンツ供給側は大切にしてくれなかったという憤りだった。
 口汚い言葉が頭の中に浮かんでは必死にそれを打ち消した。私はそういう言葉を気軽に使う大人にはなりたくなかった筈だから。
 色んな言葉が頭の中を駆け巡った結果、自分の時間やお金やエネルギーを、これ以上このコンテンツに費やすのは止めようという結論に達した。
 自分が楽しくなる為に追いかけていたものに、怒りや僻みしか向けられなくなったら、それはもう終了の合図だろう。
 そんなことを仕事始めの日に延々と考えていた。
 そして思い出したのが、神クズ☆アイドルに出てくる黒いちごさんの存在である。

※ここからの内容は1〜6巻の内容に触れています。未読の方はご注意下さい。もうお分かりとは思いますが今回感想というより自分語りが多いです。

 神クズは基本的にアイドル讃歌でありオタク讃歌の作品だ。
 オタクたちはアイドルを心から愛していて、ダメなところもおかしな部分も全肯定して勝手に盛り上がってしまう。
 年齢も服の趣味も性別も違うのに「担当(推し)が好き」という気持ちで繋がっている彼女彼らは、毎日が大変そうだが心底楽しそうだ。
 そんな作品の中で出て来たのが、黒騎士アイドル七瀬ヤクモという、独特の世界観を持つアイドルと、彼を10年に渡って支え続けたファンの一人である黒いちごさんだ。

 (話としては5〜6巻がメインですが、ナナ様初登場は3巻)


 今までアイドルのやることなすことほぼ全肯定だったオタクたちと違い、黒いちごさんは愛するナナ様のドラマ初挑戦に大反対で、「アイドル業に専念しろ」と書いた手紙を花束に隠して渡してしまう。
 黒いちごさんはナナ様が作る物語の中にいるような世界観をとても大事にしていたから、現代的なドラマへの出演や彼がいわゆる茶の間に見つかることによって、それを茶化されたり壊されるのが耐えられなかったのだ。
 しかし実は二回デビューしている苦労人のナナ様がドラマ出演を決めたのは今後もアイドルを続けていく為で、それはひいては黒いちごさんの為にもなることの筈だった。
 彼は自分に夢を託してくれたかつての仲間たちの為、応援してくれるファンの為に、今までと違うことに挑戦しよう、仕事を増やそうと頑張っていたのだから。
 自分の決断で離れていくファンがいることを予感し悩むナナ様に、主人公である仁淀くんは「それはしょうがない」ときっぱり伝える。
 アイドルの新たな挑戦や変化にどう対応するかはファン次第で、それはファンの判断への信頼だとナナ様は受け取った。

 黒いちごさんの話で重要なのは、彼女の母親の存在だ。
 オタク趣味に理解ある優しいママというわけでもなく、極端な毒親というわけでもなく、絶妙な塩梅のオカンなのだ。
 娘がロリータファッションで外に出て行こうとすれば「もっと普通の服にしたら?」と注意し、ドラマに出たナナ様を見れば「普通の格好してれば売れるわよ、お母さん前からそう思ってたのよね」と悪気なく口にしてしまう。
 娘の地雷を気軽に踏み抜いていくお母さんだが、娘が好きなものは把握しているし、別に全否定しようとしているわけでもない…と思う。ちょっとデリカシーがないだけで、お母さんってこういうとこある〜と思ってしまうような母親像なのだ。
 黒いちごさんがずっとナナ様のことを見ていたように、お母さんは黒いちごさんのことをずっと見ていた。
 だから最近の我が子がいつも嫌そうに顔をしかめていることにだって、気づいていたのだ。

 ナナ様にさよならを告げた黒いちごさんの担降りは、不思議と前向きで爽やかだった。
 今までの感謝を手紙で伝えてお別れをし、彼女はナナ様の作る物語の外でも、好きな服を着て一人で歩き出す。
 ナナ様は黒いちごさんのいなくなった客席を見渡して彼女の決断を尊重し、「これからも私は皆様の黒騎士であり続けます!」と笑顔を見せる。
 離れることになった二人の距離に、けれどアイドルとファンという関係における『信頼』が確かにあると、私は感じた。

 黒いちごさんが離れることを決断出来なければ、花束に忍ばせた手紙の内容はどんどんエスカレートしていたかもしれない。
 好意が執着に変わり嫌悪にまで発展すれば、警察沙汰になって黒いちごさんとお母さんの関係まで変わっていたかもしれない。
 一度好きになった、入れ込んだもののことは、ひたすら応援し支えるのがオタクとしては正しい姿なのだろう。
 けれどそれがどうしても出来なくなってしまったときが、オタクの独り立ちのタイミングなのかもしれない。


 もし神クズを読まないままこのnoteを読んでいる方がいたら、黒いちごさんの結末はちゃんとコミックスで読んでほしい。
 いつか自分が苦しむことになったとき、彼女の姿に助けられるかもしれないから。

 黒いちごさんやナナ様が自分の決断を信じたように、私も自分の決断を信じたい。
 オタクを辞めても人生は続く。愛していたコンテンツから離れるこの決断が、私の人生をより良い方向へ導いてくれると思いたい。

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