サイレント競歩
スタートもゴールも勝ちも負けもない
帰り道。まっすぐの道を歩いていると、車道をはさんだ向こう側の道に腕を振り、すたすたと歩いているおじさんがいた。
車道をはさんだ向こう側の道は、道なき道である。僕が歩いていたような舗装されている道もあるが、そうじゃないエリアもだいぶ長い。つまり、車道を歩くことになるのだ。そこには自転車専用を表すマークが書かれて(横断歩道の白線みたいなやつ)いて、おじさんはその上を闊歩した。
僕はそこそこ足が速いと自負している。短距離はもっぱらビリから数えたほうが早いくらいだが、長距離はベスト一桁には入る。
負けるわけにはいかない。
直感的にそう思った。
正直この戦いは不利だ。向こうは直線距離で、まっすぐ進めば良いだけなのに対して、僕の方は若干の蛇行がある。起伏も、僕のほうが高低差がある。
微々たる物とはいえ、フェアではない。スポーツマンシップという言葉が脳裏をよぎる。と、熱くなっているがこれは完全な自己満足だ。
…結果はというと、引き分けだった。まったく面白くない結果になって残念だが、そもそも競争なんて行われていなかったんだからどうでもいい。
それでも、なんとなくできたグルーヴ感は一体なんだったのだろう。