運転のこだわり
仕事が終わってから泊まりに来た彼は、帰宅するなりすぐシャワーを浴びて、浴室から出てきてこう言った
ドライブがてら、外にご飯たべにいこう
彼は気分の男だ。計画性という言葉なんぞ、彼の辞書にはない。
私は急いで支度をして、助手席に座った。
どこ行きたい?と彼が聞く。
急に言われても、すぐには思いつくものではない上に、21時過ぎのコロナ禍だ。急いで空いてそうな先を調べる。
調べている間にもがんがん運転している。迷いなくずんずんと。どこに向かってるの?というと、とりあえず行ったことがない方面、と言った。彼の辞書には、調べものという言葉もないことを悟った。
この道の先にお肉食べるとこ、あるよ、と言うと、じゃあそこ行くか、と力無く言った。店に近づいて、そこ、そこ!と指を指して知らせたが、平然と店の前を通り過ぎた。
… なんだ?
車の流れが良かったから、このフローを止めたくなかった、と彼は少し楽しそうに弁明した。
少し進んだ前方にラーメン屋さんが出てきて、あそこ美味しそう、と言うと、道路の右側にあるから無理だよ、と即座に却下された。そうだった。彼の法律では、右折は違法なのだった。
そんな調子で1時間半くらい走り続けただろうか。空腹で店を提案する気も消滅した。お腹すいたからもうコンビニでいい、と言った頃には山奥にいて、まわりにコンビニさえなかった。
もう遅いし店全部閉まったよ。帰ろうよ。
彼は前を向いて、聞いてるのか聞いてないのか、ラジオを聴きながら順調に運転を続ける。窓開けてみなよ。土の匂いがするよ。
怒る気も失せて、もうどうにでもなれ、と思ったその時、前方に焼肉屋さんが見えてきた。あそこにしよう、と彼が言った。後続車なし、広い駐車場、周りに信号機なし、そして道の左側。
ようやく条件が揃ったその店は、予想外に美味しかった