かめ

独身子なしアラフォーです

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地獄と極楽のはざまで

壱岐に行く途中に博多で前泊した 博多は何度か行ったことがあり、今回の旅の目的地ではなかったので、特に何も見ないで美味しい物だけ食べて早く寝ようと思っていた。 が、飛行機でガイドブックをペラペラめくっていたら、なんともアジアンな顔つきの日本一巨大な木造大仏があることを知った。しかも大仏のお腹の中を歩けるタイプ。スリランカで見た大仏を彷彿とさせて、懐かしさもあり、ちょっと立ち寄ることにした。 大仏は建物の2階に鎮座していた。 階段を登った先の窓口で、普段見かけない特大

    • マインドセット

      行き詰まると、ふと思い出すシーンがある 小学生のとき、水泳オリンピック選手候補の子と出席番号が隣だった 体育の授業でプールに入ると、その子がお手本として泳ぎを披露する時間があり、あっという間に向こう岸まで泳ぐその速さに、さすがオリンピック目指してるだけあって超人的だ、とみんなで感心していた ある日、出席番号順で5人づつプールに入り、せーの、で向こう岸まで泳ぐ、という練習をした。右隣はオリンピックの子だ。 せーの。5人いっせいに泳ぎ始めた。必死に泳いで少し進んだとき、右

      • 執着しないこと

        長く勤めた会社をやめて転職した 前の会社は第二新卒で入って以降ずっと働いていた。誰でも知っている大企業で、事業内容にも愛着があり、それなりに責任のある仕事を任されていて、事業拡大に自分なりの貢献をした自負があり、それが誇りだった。早朝から夜中まで、週末も返上して働いた。わからないことを聞かれたり、あなたにしか出来ないなどといって頼られると嬉しかった。期限が短いプロジェクトをなんとか終わらせるために夜中に電話会議したり、休暇中も仕事メールを適宜返信したりしてるとき、自分かっこ

        • 態度が太々しく、すぐ駄々をこね、気に入らないことがあれば肉肉しい頬を真っ赤にしてワンワン泣き、怒ると歯をむき出して腕に噛み付いてくる。 そんな妹が小さい頃から大嫌いだった その奔放な性格のためではない。私が独占していた親や親戚の愛情を、生まれるだけで簡単に奪っていったから。 幼い頃、祖母の家に遊びに行くと、黄色い声とメロメロな視線を浴びて、順番待ちの親戚に次々に抱っこされるのが恒例となっていて、そのアイドル的な扱いを私はまんざらでもないと思っていた。 4歳の夏、異変が

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        • 皮ふ
          2本

        記事

          皮ふ6

          オレンジ色のクリームを塗って10年目の節目の年、私は賭けに出た。 フランスの奥地に療養に行く。それでも治らなければ治そうとするのをやめる。 日本のドラッグストアなどでも売っているフランスの温泉水が皮ふの回復にいいといわれているということを、フランス人の友達をフランスに訪ねたときに彼女の親戚の薬剤師から聞き、その温泉水が湧き出ているフランス奥地の村で療養したい、と思った。温泉水だからクスリみたいに悪化することはないだろう。しかも、フランス人であれば保険適用もされるちゃんとした

          皮ふ5

          大学生になっても2週間に1度大学病院の皮膚科に通った。 出るクスリは同じ。 病院を変えても医者のアドバイスも処方するクスリもほぼ全く同じ。 それは10年たっても変わらなかった。 医者は、私のクスリの塗り方が足りないから治らないのだといった。 良くなるまで塗り続けてください。指導した通りに塗れば必ず良くなりますから。 どこかで聞いたことのある言葉。 言われた通りにしてみたけど、治らないどころか、悪化することもあった。 言われた通りにして悪化したのに、それを治せるクスリもない

          皮ふ4

          ああ、くやしい。 あの女医に皮ふを台無しにされても、私の人生まで台無しにはさせない。 そう思ったら力がみなぎってきて、とりつかれたように勉強した。 受験まで4か月。逆算して1日の勉強量を決めた。前の日にやったことの復習と当日分。トイレとお風呂とごはんと塾のとき以外は自分の部屋にこもった。季節が秋から冬に変わっていくのを認識すると気持ちが焦るので、家族にクリスマスとお正月の禁止を申し出た。チキンやおせち料理はやめてほしい。あと、私が居間にいるときに季節の話題を出したり、テレビ

          運転のこだわり

          仕事が終わってから泊まりに来た彼は、帰宅するなりすぐシャワーを浴びて、浴室から出てきてこう言った ドライブがてら、外にご飯たべにいこう 彼は気分の男だ。計画性という言葉なんぞ、彼の辞書にはない。 私は急いで支度をして、助手席に座った。 どこ行きたい?と彼が聞く。 急に言われても、すぐには思いつくものではない上に、21時過ぎのコロナ禍だ。急いで空いてそうな先を調べる。 調べている間にもがんがん運転している。迷いなくずんずんと。どこに向かってるの?というと、とりあえず行

          運転のこだわり

          モーニングルーチン

          朝、目覚ましが鳴る。今日もまた、1年くらい続いている出勤しない勤務の日。家の中には私ひとり。窓の外から鳥の高いピッチの鳴き声がする以外は物音がしない。このタイミングで起きないと一生寝ていたくなる。ああああ、と喉の奥から音声を出してみる。布団をどかす布がすれる音。身体を起こすとベッドがきしむ音。いっきにカーテンと窓を開ける。ひんやりした乾いた空気が心地よい。シーツと枕カバーを剥がして洗濯かごに入れる。ついでに家中のゴミを集めながら全ての窓を開けていき、最後にそれらを台所にあるゴ

          モーニングルーチン

          皮ふ3

          大学病院のクスリのおかげで次の日には全身の皮ふが血管が透けてみえるほど青白くなったが、汲み上げ湯葉で液体をくるんでいるように脆くて、ちょっとしたことで傷がつき、そのすき間から体液が吹き出してきてあっというまにほぼ元通りになった。吹き出した浸出液は乾燥して大小いろいろな大きさの黄色い塊になり、赤黒いキャンバスの上の柄となる。固まった血がところどころに赤いアクセントを加える。顔の筋肉を動かすとかさぶたに割れ目ができて奥から液体が吹き出してくるから顔の表情は変えないようにする。黄色

          先日の出来事

          ビデオ会議が終わり、今日初めて外に出る。お腹すいた。玄関の外には、昼間の真ん中あたり特有の、ピンク黄色がかった機嫌の良い光が待っている。光のなかに入る。ありのままを受け入れる包容力をもつ光。歩く。歩く。どんどん身体から力が抜けていく。 ランドセルを背負ってぶつぶつ言いながら蛇行する男子。前に子供を乗せたママチャリを押して歩くママ達。幼稚園の前で園児を見守る警備員。お母さんとの再会が嬉しいのか、大きな声で話して大袈裟に笑う幼稚園児。平日のこの時間、この町は彼らのものだ。毎日会

          先日の出来事

          皮ふ 2

          それから毎日、私はもっとたっぷり、さらに真面目に塗った。 赤い皮ふが黒ずんできて、瞼の皮ふがその面積を増して目が半分しかあかなくなっても。 頬がシーツに少し触れただけで猛烈な痒みになるから、横たわって眠れない日が続いても。 だって、今が正念場だから。ここを乗り越えれば赤ちゃんのようなもち肌になるから。 いまやめてしまったらこれまでの苦労がもったいない。あともう少しだから。 夏休みが終わりに近づいたころ、見かねた両親が抵抗する私を抱きかかえるようにして無理やり車に乗せ、近くの

          今日の出来事

          明らかに歌が聞こえる。気のせいかと思って数回聞き流したけれど3回目でそうでないことを確信した。何の歌かまでは特定できない。サビと思われるフレーズを2フレーズほど歌うと、歌っているときより少し大きな声で何かを数言つぶやいて、つかの間の休憩を挟み、同じフレーズを再び歌った。歌謡曲だろうか。クラシックではない。ハ長調で4分の3拍子だ。声の主は喫茶店のカウンターでひと席空けて隣に座っている男性。ぼっちだ。痩せ型で白いシャツの上に黒いパーカーを羽織っている。いや、チェックのシャツか。目

          今日の出来事

          皮ふ 1

          私の皮ふは、人よりうすくて、ぼこぼこしている。 うすくてぼこぼこしていて、自分の内と外の境をあいまいにしている。 内にある体液をしっかりと閉じ込めておけず、うっかりすき間からもらしてしまう。 外で起きている気圧や気候の変化はかんたんに内に入りこんできて、内の調和を乱す。 内の不調和は、皮ふをますますうすく、ぼこぼこにして、外に向かって主張する。 かつて、私の皮ふは、内と外をはっきり分ける役目を果たしていた あいまいにしたのは1本7000円の、舶来ものの、うすいオレンジ色をし

          皮ふ 1