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皮ふ 2

それから毎日、私はもっとたっぷり、さらに真面目に塗った。
赤い皮ふが黒ずんできて、瞼の皮ふがその面積を増して目が半分しかあかなくなっても。
頬がシーツに少し触れただけで猛烈な痒みになるから、横たわって眠れない日が続いても。
だって、今が正念場だから。ここを乗り越えれば赤ちゃんのようなもち肌になるから。
いまやめてしまったらこれまでの苦労がもったいない。あともう少しだから。

夏休みが終わりに近づいたころ、見かねた両親が抵抗する私を抱きかかえるようにして無理やり車に乗せ、近くの大学病院に連れて行った。
そうなる前にも、クリームやめたら?と言われたことは何度もあった気がする。
でも私は頑としてやめなかった。
あの洗練されたクリニックの女医さんが、もう少し塗ったら良くなるっていってたから。
うちの親はあの画期的な考えを理解していない。私にはわかる。もうすぐ良くなるってわかってる。

久しぶりに家のドアを出ると強い健康的な夏の光が目の奥を通って私の脳のどこかを刺激した
風が皮ふにあたると痒みか痛みになるので車の窓は開けられない
どのくらい昼夜逆転の生活を送っていただろう

そのころには全身が爛れていて、からだ中の触覚スイッチが「強」に入ったまま、戻せなくなっていた
全身に痒いエリアと痛いエリアが、規則性なく混在していて、感覚の処理がおいつかずに脳が混乱しているような感覚もあった。
爪を深く食い込ませて掻いた多数のひっかき傷が、関節を動かすたびに痛んで、大学病院の入り口から皮膚科受付まで歩いて移動するのにだいぶ時間がかかった。

待合室で近くに座っている高齢女性が驚いたように私を見ている
見渡しても私と同じくらいひどく爛れている人は見当たらない。
大学病院の皮膚科なのに。

名前を呼ばれてべージュのカーテンをくぐると、膝まである白衣を着て眼鏡をかけた若手の医師がPCの前に座っていて、こちらを向いてどうしましたか?と尋ねた。
むっつり黙った私の代わりに母が状況を説明すると、クリームが合わなくてただれを起こしていますね、と無機質に言った。
この人は若いからわかってない。そもそも、こういう大きな組織に所属している人に理解できるはずがない。
あの海外のクリームの画期的で素晴らしいところを。
合わないとかじゃないです。今は一時的に悪くなっているだけで、もっと塗ったら良くなるって言ってましたけど。
私はその医師を見下しながら、そっちの方向を向いて、強い口調で言った。
こいつには何もわからない。

でも大学病院の医師は、ただれているという診断を曲げようとしなかった。
母も悲鳴のように言った。とにかくあのクリームはやめなさい。

折れるつもりはなかった。
でも全身赤黒く腫れて傷だらけの皮ふから膿を流しつづけている私に何の説得力もなかった
余計な事しないでよ。母に強くあたった。

処置室の点滴針から冷たい液体が腕にあけた穴を通って全身の血管にすっとめぐっていく。
これが効いたらふかふかの布団に体を預けて朝まで目覚めることなく眠れるだろうか

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