オシリフルフル 2つの効果
こんな羽根を見たことはありますか? 日本ではあまり見ることはありませんが、「フルフル(FluFlu)」などと総称されるハンティング、それも飛んでいる鳥を射ち落とすのに使用する矢に取り付ける羽根です。
特徴は空気抵抗が非常に大きいことで、普通のハネを付けた矢であれば、上を狙って発射した場合、矢が獲物を外せば放物線を描いて遠方まで飛んでいってしまうのに対して、この羽根であればだいたい弾道の頂点付近に達した時点で失速して、矢はそこから真っ直ぐ地上に向かって落下してしまうのです。矢をなくす確立が低く、かつ安全であるというわけです。
このように羽根は昔から現在に至るまで使用されています。ターゲット競技においては、1960年代中頃までは「鳥羽根」が使用されていました。それがプラスチックの硬いハネ「プラバネ」に変わり、1970年代中頃には柔らかいビニールの「ソフトベイン」が登場します。そして現在の「フィルムベイン」の原型となる、2枚バネのスピンベインが登場したのは1975年のことです。
このように形や素材は変わっても、ハネの役目は「空気抵抗」を作ることです。リカーブボウの場合、ストリングを片側から解除するために、必然的に矢は発射時に蛇行することになります。このアーチャーズパラドックスと呼ばれる蛇行運動を、より短距離で解消し安定した直線の飛行に持っていくために、「パラドックスの制御」がハネの最大の目的となります。
そのためには、ハネの種類と大きさが重要です。例えば、鳥羽根はフルフルのように羽根自体が間に多くの空気を抱え込むことで、同じ大きさならビニールやフィルムのハネより大きな抵抗と修正力を持ちます。そのためパラドックスを短時間で解消させる反面、距離が長いと失速という逆効果が生まれます。また雨が降れば羽根の間に水を沁み込ませ、閉じて重くなり、本来の効果を発揮できません。
そこで雨の降らないインドアは別にして、アウトドアではビニールやフィルム素材が有効に働き、表面積の大きいハネがより大きな修正力を発揮することになります。ただし、表面積は羽根同様に、大きくなると失速を招きます。
このようにハネの素材と形状は、「パラドックスの制御」に影響を及ぼしますが、空気抵抗にはもうひとつ大事な目的があります。「独楽の原理」です。回っているコマが倒れないのと同じで、回転して飛翔する矢は、安定と方向性を得ることになります。
そして、回転によるこの2つの目的は、飛翔中に同時進行することになります。
「独楽の原理」は「ジャイロ効果」とも呼び、シャフトの長さ方向を軸とした回転を矢に与えることで、飛翔の安定を得ます。この回転は取り付けるハネに「ピッチ(Pitch)」と呼ばれる傾きを付けることで得られる空気抵抗によって生み出され、形状や表面積が回転力に影響します。
回転はノーピッチの矢でも発生します。これはリリース時の指の動きやストリングの蛇行が潜在的に生み出すもので、この時起こる回転と同じ向きにピッチは付ける方が飛翔の安定には望ましいでしょう。
ただし、回転は多ければ多いほど良いというものではなく、1秒間に7回転程度が必要十分条件といわれています。必要以上の回転は、それが外部からの空気抵抗によるものだけに、失速という悪影響を生み出したり、矢に不自然な挙動を与えることがあります。
ライフル銃でも弾が回転しなければ的中しません。意外とアーチャーは気付いていませんが、矢の回転はアーチェリーの的中精度の高さを維持するのに大きな役割をはたしています。
ライフル銃にはライフルマークと呼ばれる、らせん状の溝が銃身内に彫られています。発射時に銃弾はこの溝によって回転が与えられ飛翔しますが、溝のない銃身で放物線を描くような距離では、弾丸は頂点からの落下時に下からの空気抵抗によって反転、転倒してしまうのです。
ただしライフル銃の回転は、発射時にらせん状の溝から与えられますが、アーチェリーはまったく異なります。矢は発射後に飛翔する空気抵抗によって回転や修正を得るのです。そのため、ピッチや形状も重要ですが、特にハネの素材と表面積の大きさが、矢の的中精度に影響を与えます。